1.責任をとってもらおう

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「『帝国未婚者リスト』に『帝国美人図鑑』に『女性の口説き方』から、恋愛小説まで」 「あっ、そっちは」  それからと視線を移した本に、リリエンは今すぐ隠したいと手を伸ばそうとしたがその手を掴まれあっけなく阻まれる。 「これもリリエンが持ってきたものだろ? どこで手に入れたのか『夜の女帝たち』、ああこれは夜の女性のカタログリストか」  ぱらぱらとめくりながら、エルドレッドは実に楽しそうにリリエンを見た。 「それと『女体の感じ方』に『男女の営み図録』、これなんかは」 「あははははっ」  リリエンは誤魔化すように笑った。  護衛の騎士たちや侍従と人気があるところで、皇子に読み上げられる羞恥。 「こんなものを男に、しかもこの国の皇子に押しつけるのはリリエンだけだろうな」 「私もなんとか殿下に女性に興味を持ってもらおうと必死だったんです」  そう。エルドレッドのため、ひいてはお金のために頑張っているのだ。  何せ前金をもらったのだから、それ相応の働きをしなければとただただ最善を考えて動いた結果だ。 「そうか。必死だったんだな。それも俺のために」 「はい。殿下のために」  こくこくと頷くと、エルドレッドは非常に満足げに頷きすぅっと目を細める。 「なるほど。それは嬉しいな。ところでリリエン、今はいくつだ?」 「十八になりました」 「俺の年は知っているか?」 「殿下は二十歳になります」  皇后が二十歳になっても女性の気配がまったくないエルドレッドを心配したため、リリエンにまで依頼が来たのだから覚えている。  急に年齢を訊ねてくるとはと首を傾げると、そこでエルドレッドの双眸が細められた。 「そうだ。俺たちは成人している」  今更確認せずとも、それは互いにわかっていることだ。成人しているからこそ、自分たちはこうして出会ったと言ってもいい。  いったい何を言い出すのかと警戒を滲ませドレスを掴む。つるりと滑る素材が心許ない。 「そうですね。結婚してもおかしくない年齢になります」  頷くと、耳につけた飾りがしゃらりと光る。  今のリリエンの姿は領地にこもっていた時には考えられないほどオシャレをしている。  そのすべては用意されたもので、飾り紐一つとってもリリエンには贅沢すぎるほどの値段のものだ。  そうして着飾ることをしなければ会えない相手。  面倒くさがりのエルドレッドは普段多くを語らないが、気を許した相手や話すと決めたときは弁が立つ。  嫌な予感に、じっくり間をおくエルドレッドを見つめた。 「――今まで放置して申し訳なかったな。せっかくリリエンが俺のために選んでくれた本だ。この機会に一緒に読んで勉強しよう。付き合ってくれるよな?」 「辞退することは?」 「できると思うか?」  がしりとリリエンの両肩を掴むと、にぃっこりとエルドレッドは微笑んだ。
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