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2.皇后の依頼
そもそもの始まりは、三か月前。皇后からの依頼であった。
リリエンは、目利きもろくにできないくせに骨董にはまりあらゆるものを買い集めた祖父のせいで、常に金欠な侯爵家の長女として生まれた。
お人好しの父にのんびりものの母、そしてその二人を足して二で割ったようなのほほんとした長兄に愛情いっぱいに育てられた。
家族仲は悪くないが、常に一か月先を気にする生活。愛情の素晴らしさを感じてはいるが、実際問題それだけでは暮らしていけない。
早々にのんびり者の家族だけに任せておけないと気づいたリリエンは、気がつけば家計をやりくりするようになっていた。
大金持ちになりたいなんてことは言わない。
せめて年単位の余裕を持ちたいとささやかな願いはいつまで経ってもこず、黄金の雨でも降らない限り夢のまた夢である。
その日も連日続いた雨のせいで厩舎が雨漏りをし、修繕費をどこから持ってくるか頭を悩ませていた。
「せっかく来月はケーキが食べられると思ったのにぃぃ」
「申し訳ありません」
頭を抱えて嘆いていると、祖父の代から勤めてくれている執事が申し訳なさそうに頭を下げた。
「フランは悪くないわ。父様も兄様も頑張って働いてくれてはいるのだけど、あちこち修繕が必要なせいでとんと追いつかないのよね。領地の整備ができているだけまだマシだけど」
いつものように執事と帳簿を睨めっこし、リリエンは溜め息をつく。
豪遊しているわけではないのに、次から次へとお金が溶けて消えていく不思議。
さあ、今度こそと思えば、やれここが悪い、やれ税金だと貯まるのを待っていたかのように次々とお金が必要な事案が発生する。
かろうじて借金は免れているが全く余力はなく、現在も食費を削ってなんとか使用人たちの給金を捻出しているところだ。
「お美しいお嬢様が社交の場に出られないことに心が痛みます」
「仕方ないわよね。そういう場に出ればドレスも毎回新調しないといけないし、ドレスを買うくらいならみんなで美味しいものを食べたいわ。おじいさまの骨董品もお金になるものがあったらよかったのだけど、ガラクタばかりだし」
はぁっと息をつくと、そこで父がものすごく慌てた様子でリリエンのもとにやってきた。
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