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したたかしとアザトサと牛乳瓶
「あの…先輩達にご相談したい事が、ありまして……」
おもむろに一年の木葉 紅葉が、委員会終わりに俺ら生徒会役員に話し掛けてきた。
「あら。木葉くん!」
パァ~~ッと、輝くような笑顔を見せてきたのは、副会長の安堂でサバサバし過ぎな女子として有名が、その安堂でさえも顔が緩み…
「相変わらずだなぁ…」と、聞き取り困難な声で、書記兼会計で同じ二年のクラスメイト蓮沼は、真面目に呟く。
俺らの前に現れたのは、まぁまぁ可愛い系で…
安堂らが言うには、美形で見目麗しいんだとか…
まぁ…確かに可愛い部類。
で、大きなメガネをしていて、そのメガネ姿が、本人曰く嫌なので前髪をやや長めに伸ばしているらしい。
コンタクトにすれば?
と言うと、ドライアイで医者に止められたらしい。
それを隠す為に髪を伸ばして視界を塞いでいたら。
意味ない気もするが…
もはやその髪質が、全体的にサラサラで、たまに同学年の女子達から髪型をイジられ。
リボンやらシュシュやらを、付けられていたらしいが、本人は邪魔な髪をまとめてくれたと、とても感謝していたとか…
でわりと似合うって言うんで、これまた評判になっていた。
まだ入学してそんなに時間は、経っていないにも関わらず、木葉の存在は全校生徒の中でも、極めてデカいが…
木葉自体は、小柄でちょこちょこと動いている小動物っぽい。
制服も、採寸して買うだろうに…
他の誰よりも、ブカブカ…
ジャージ姿においては、女子並なブカッとした格好にキャ~ッと、歓喜の悲鳴が上がって、たいそうな評判になった程だ。
「所で、相談って何かしら?」
いつものサバサバ女子ドコいった?
「あの…クラスのホームルームのことなんですけど…」
木葉から話を聞き出すと、ホームルームで委員会の話をしたら皆が、ボーッとしてて話を聞いてくれない。
「やっぱり。僕には、クラス委員とか向いてないのかなぁ…って…」
小動物が、ショボンとすると一気にギャラリーと生徒会や格委員とは、無関係な生徒や先生達が、一斉に振り返る。
しかも、廊下側や一階と言う利点から外側の窓から身を乗り出すスポーツ系の部員や帰宅部系のヤツらに様々だ。
「うんうん。全然、そんなことない! 寧ろ。羨ましい!」
「羨ましい?」不審な表情を浮かべ安堂を見上げる。
「あっ…えっと…オレだったら。話を聞き入っちゃうなって…な!」
「そう! 私達から言っといてあげるから。心配ないわ!」
安堂と蓮沼の機転の効いた? 返しに木葉は、少し安堵した風に微笑んで帰っていった。
殺傷能力高すぎんだろ?
何だコレ…
一斉に皆が、平伏された状態だ。
それを本人は、気付かずに行ってしまった後…
「あの…可愛さは、半端ねぇ~」
「天使って感じぃ~」
そんなセリフで埋め尽くされる生徒会活動に使われた一階の会議室のこの惚けようは……
「大丈夫か?」
ズズーッと、紙パックの牛乳を飲み込む。
「なに牛乳飲んでんだよ!」
「…好きだから…」
キッと、安堂達が席を立った俺を、見上げてくる。
「何で…アンタは、平気なの?」
「何を?」
「だって! あの容姿よ! 全ての可愛いを詰め込んで、出来上がった顔のパーツ。華奢な身体にサラサラの髪…」
「だな……で?」
別に言ってる意味が、分からない訳ではない。
見れば分かる。
本人は、自分の容姿を理解しているのか、いないのか微妙なところだが…
それまでだと思う。
確かに木葉の微笑み一つで、この学校全体をザワ付かせ惑わせる事が、出来るだろうが…
まぁ…いい。
「じゃ…俺は、これで帰るから。書類が、出来上がったら生徒会室の机にでも出しといて…」
「へぇ…もう帰るの?」
「バイトあるから…」
「頑張ってぇ~~」
あきらかに、どうでもいいと言うような口調に軽く手を振って、会議室を後にする。
「なんか会長って、瓶底メガネのせいか…堅いと言うか、折り目ピシッて感じ…真面目で…」
「制服は着崩さず。髪型もピタッって感じでさぁ…遊び心なさ過ぎる…」
「あぁ…髪は、ピシッってないとダメなんだよ。天パーでクルクルってなんだって…で、そんな髪質の影響で、髪の色味が薄くなるから。普段あぁ…してて、制服は、それに合わせた結果だとさぁ…」
「あの瓶底って感じのメガネは、伊達メガネだったりして?」
「へぇ~っ…そしたら。私服っての? 髪も下ろしたら。もう誰かん分からないじゃん!」
「マジにそうだったら…ウケるぅ~」
変に笑いを、取るつもりもないし。
誰かに合わせてる訳でもない。
見た目で目立つと、からかわれるのが俺だし。
成績優秀だとか?
真面目だから?
なんって言う変な理由で、生徒会長にまつりあげられたに過ぎない。
丸々一年残ってる任期を、穏便に済ませよう。
この学校は、高校から大学とエスカレータだし。受験は関係ない。
成績優秀者を維持できれば、間違いなく大学でも、授業料免除の特待生枠か…
思い切って奨学金制度にシフト・チェンジか、どちらかだな…
「…それよも、帰って、このまま2時間後勉強して……ライ………の時……」ブツブツ
そんな風にスマホで、時間を気にしながらスタスタと廊下を歩く会長の名前は、神成 仁美。
さっきまで飲んでいた牛乳パックをそこで飲み切ると、昇降口付近のゴミ箱に華麗にシュート。
学年での成績は、常に上位。
スポーツも、それなり出来る。
そんな先輩は、正門ではなく。
全く人気のない裏門から出るのが、いつものルーティンだ。
しかも、学校の裏門は住宅地で、そこを歩く人は、日中でも略いないからか…
神成先輩は、かったるそうにまずメガネを取って制服のポケットにしまうと、髪を掻き分けるようにグシャグシャって無造作に整えて、制服のネクタイを緩める。
時には、ネクタイを取ってリュックの中にしまったり…
わぁ~~っ。
いつ見ても、ネクタイを緩める姿は、側倒もんだよ!
遠目だけど、あまりにもカッコよすぎる姿に思わず僕は、通り過ぎる車の音に紛れさせてスマホのシャッターを切る。
その為にズームでもブレずキレイに写真を撮れるスマホに替え変えたんだから!
こうして、日々先輩の写真は溜まっていき。
早速帰って、写真を加工して現像
して…
アルバムに…いや…
デジタルフォトに入れようか?
自宅専用のスマホの待ち受けとか?
選べない!
入学式の在校生代表で、初めて神成 仁美と言う存在を見た時…
あっ
この人も、姿を偽ってるって思ったんだよねぇ。
瓶底のメガネで顔のパーツは、微妙に見せているけど…
絶対に顔の形や姿は、他の人よりも整っていて、その辺の人よりも綺麗だと直感した。
僕自体。この顔でそれなりに得してきたし。どう接すれば快く頼み事をきいてくれるかとか…
勿論。その逆もありで、この学校の場合は、少しとぼけてトロそうな感じでいけば…
それなりに上手く立ち回れると思った。
それは、初日から大正解で。
僕は、可愛いのにそれに本人は、気付いてない。トロくてちょっと抜けてて…
でも、成績は良い方と印象付けられたと思う。
それから直ぐに、クラスメイト達からクラス委員をして欲しいと、言われた時は、心の中で大きく天に向かってガッツポーズしたよ。
だって、クラス委員って事は、神成先輩に近付ける最短ルートだもん。
神成先輩は、二年生で生徒会の仕事を、誰よりも真面目に取り組んでいて…
頼りになって、おまけに信頼もあつい。
頼る振りして、近付いてよく見ると顔のパーツが、どれを取ってもカッコ良い。
鼻筋から唇。顎に抜けるラインの強弱された線。
指の一本一本までもが、神がかりに造り込まれたんじゃないのかって程に…
綺麗で、溜め息が出そうになるのを、ジッと耐え忍んだ。
名前以外にも、色々と知りたくて…
バイトだからと帰って行く先輩の後を追って…
裏門出たら。あの姿…
一本じゃないどころじゃなくて、何十本の矢で、一気に胸を貫かれた感覚に振るえてしまった。
これは、もう恋で良いんじゃないかって! 思えてしまってからは、帰り道で先輩の後を、こっそり追ってみたり。
先輩の家の近くにまで散歩したり。
たまに私服で、無造作天パーの先輩が出没する時間帯を見計らって、コンビニとかスーパーとか…
電気屋さんとか…
思いっきり気になって後をつけたらは、パソコンを眺めたり店員さんと話し込んだり。
おもちゃ売り場では、ゲームのソフトを物色したり。
中古屋さんでも、古いソフトを何本か購入したり。
先輩って、ゲーマー?
とか思って、会話の切っ掛け作りに先輩が、その日に物色していたゲームのソフトを検索していたら。
とあるゲームライブ実況チャンネルに行き着いた。
普段の僕は、動画チャンネルを見ても、ファッションとかコスメとか美容関係しか見ないし。
ゲーム実況チャンネルは、未知で…
戸惑いながらチャンネルを見出した。
実際は、ゲーム好きかも知れない先輩と話が出来る切っ掛けになるんじゃないかと思って…
そのチャンネルは、登録者数が半端ない数で…
実況者は、男の人。
チャンネルの会話内で、自分は高校生と名乗って……
声が…
“ 神成先輩!! ”
いつも耳を澄ませて一言一句。聞き惚れてる声を僕が、聞き間違えるはずがない!
神成先輩は、バイトとか言って早めに帰宅してコンビニで、ご飯類を買って、電気屋とか中古屋さんでソフトを買い漁って居たけど、それをライブで実況しているんだ……
秒速よりも早くチャンネル登録して、過去動画まで、さかのぼりその日から数日かけて一気見した。
今日も、実況しますとお知らせがあったから。
勿論。夕飯やお風呂を早目に済ませて待機中。
僕の机の上は、先輩の写真やらチャンネルの公式グッズも置いてある。
公式のアイコンとマスコットが、なぜ牛乳瓶をデフォルメしたようなマスコットなのかと、思わず。
“ 何で、マスコットが牛乳瓶なの? ” って、呟いたら。
僕と知らない先輩は、
“ 俺、牛乳好きで、特にビンのね ”
と、生の声で返してくれた。
ぶっ倒れるか、鼻血が出るかと思う程にビックリした。
まぁ…興奮しまくりで、親にうるさいと注意されたけど、そんなのはどうでも良かった。
次の日になり僕は、放課後。略人気の無い購買部の近くのスペースで、スマホ片手にパックで、牛乳を飲む神成先輩を見つけた。
見つけたと言うよりも、僕が付けていただけの話だけど…
購買部まで来てウロウロするだけも、変に思われそうで、僕も何が買おうと冷蔵庫の扉の前に立った…
僕は、昔から牛乳の味が苦手で…
いつもは、フルーツ牛乳とかカフェオレとか飲むんだけど、今日は頑張って飲んでみようかって、手を伸ばしたけど…
やっぱり止めて、よく飲むフルーツ牛乳を買った。
こんな感じだから。
普段も、配信の時も、まともに声なんって掛けられない。
今更ながら。
先輩に近付く口実を、間違えたかもと不安になる。
委員会活動が、同じだからって近くにいける訳じゃない。
ドコに居ても、遠い人は遠い人…
スペースに置かれた大き目の椅子の上に、膝を抱えて小さく沈みながら。いつもは美味しそうに飲み干す勢いで買うフルーツ牛乳を、なぜか今日に限って、美味しくなさそうに飲んでいる姿が、不自然に目にとまった。
木葉は、可愛いだけではなくて…
何かこう上手くは、言えないが…
たまに、したたかに見える時がある。
分かっててやってる?
みたいな?
こう言うとなんだけど、少し俺に似ているような…
まぁ…俺も、かなりしたたかに過ごしてるつもりだけど、木葉が何に対して、したたかなのかは分からない…
「…………」
あんまり話した事もないし。接点も委員会活動ぐらいで、それも毎日あるわけじゃない。
一週間に二日程度、会議室か生徒会室で短い時間に顔を合わせる程度だ…
仕方がない。
「木葉。どうした?」
そう声を、掛けてみた。
どんよりとしていた目が、通常よりも光っているようにも見えたのは、どう言う意味なのか…
もしかしたら。悩みとか…
聞いてもらいたい事が、あったとか?
「会長…?」
「隣いい?」
俺は、木葉の座る椅子の半分空いたスペースを指差す。
「えっ……あぁ…は…はい!…」
声が半分裏返って聞こえたのは、急に俺が声を掛けたりして、ビックリしたからか?
「あの…何か?」何で、神成先輩が?
「いや…何となく? 元気なさげだったしさぁ…悩みとか?」
「悩み……」悩みの原因が、悩みを探ってきたぁ~~っ!
「木葉は、勉強出来るって聞くし。この間のテストも、良かったらしいな…」
「ありがとうございます……」僕のこと知ってくれてる! 隣に居てもらえるとか…
幸せ過ぎるんだけど…
折角、隣に座ってくれてるのに振り向けない。
直視できない。
先輩の姿形造形美が、優秀すぎて同じ人とは思えない。
「木葉…大丈夫か? 顔赤いし…熱とかあるんじゃ…」
取り敢えず手で、木葉の額の熱を計ろうすると、慌てる木葉は赤を通り越して真っ赤な顔で、アワアワ言い出し。
風船から空気が、漏れるようにプシュ~と言う感じで、倒れそうになり慌てて俺は、木葉を抱きとめる羽目に…
幸いなのか…
微妙だけど…
購買部のおばちゃんに荷物と飲みかけのそれぞれのパックを預けて、俺は何故かブッ倒れた木葉を抱えて保健室へと歩き出した。
って…
何なんだ? これ?
木葉をお姫様抱っこって、誰得だ?
「ったく…」
続く…
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