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⑥
ある日の深夜、ハリネズミは眠りから目覚めると、自分の体に違和感を覚えた。
(ん?何か変な感じ…)
巣箱から出てみると、全身を覆っていた長く伸びた針が右半身だけ元に戻っていた。
「え!半分だけ戻ってる!何で?」
ハリネズミが呆然としてると、クスクスと笑う声が聞こえてきた。
「綺麗に半分だけ戻ったわね〜」
笑い声の主は妖精だった。
「笑い事じゃないよ!何で半分だけ戻ったの?こんな格好嫌だよ!」
ハリネズミはプリプリ怒りながら抗議した。
「ごめんね。まさか、そんなに綺麗に半分だけ戻ってると思わなくて」
妖精は笑わないように必死に耐えている。
「ねえ!まさか、ずっとこのままじゃないよね?元に戻るよね?」
ハリネズミの質問に、妖精は腕を組みしばし考えた。
「そうね…多分、大丈夫よ」
「多分…?」
ハリネズミは不安そうに妖精を見つめる。
「実はね、少しずつだけど妖精の世界の綻びが直り始めてるの。だから、あちこちで起こってる不具合も解消しつつあるわ。だから、あなたの針も元に戻ると思うのよ」
「そうなんだ!良かった〜」
ハリネズミはホッと安堵の溜息を吐いた。
「安心するのはまだ早いわ」
妖精の一言にハリネズミは、ビクッと体を震わせる。
「まだ、完全に綻びは補修されていない。思いやりや絆、信頼…大切な事に皆気付かないといけないの。私達があちこちに働きかけて、少しずつ気付いてきてるみたいなんだけどね。まだ足りないの」
「それは…僕の針が戻らない可能性があるって事?」
ハリネズミは、ずっとこのままの姿の自分を想像してみる。
「フシュッ!」
恐怖心から一声鳴くと体を丸めようとするが、左半身の長い針が邪魔をして丸くなれない。
「やっぱり、こんな姿嫌だよ〜」
ハリネズミは泣きたい気分になった。
「大丈夫よ。今回の綻びは深刻なものではなかったの。だから、あなたの針も近いうちに元に戻るわ」
「良かった〜あんまり脅かさないでよ。ずっとこのままかと思っちゃったよ」
ハリネズミは再び安堵の溜息を吐く。
「ごめんね。その姿があまりにも面白くて、からかいたくなったの」
「もう酷いよ!」
抗議をするハリネズミを笑顔で見ていた妖精は、一転して真剣な表情を見せて言った。
「今回は、深刻な状況ではなかったから良いけど…これは、前触れかもしれないって長は言ってるわ」
「前触れって何?」
「何が一番大切なのか忘れてしまっている人間があまりにも多いの。今の人間界は憎悪や足の引っ張り合い。悪口や醜い争いで溢れてしまってる。こんな状況が続けば、妖精の国はいずれ崩壊してしまうかもしれない…」
そう語った妖精の表情は酷く寂しそうだった。
「妖精の国が崩壊するなんて…ねえ!僕に何か出来る事はない?」
ハリネズミは、そんな妖精の表情を見ていたたまれない気持ちになった。
「ありがとう。その気持ちが嬉しいわ。あなたのその気持ちが妖精の国を救うのよ」
「そうなの?僕、あなた達の為に何もできてないよ」
ハリネズミの言葉に妖精は首を振る。
「いいえ。誰かの為に行動しようという気持ちは尊いわ。なかなかできない事よ。あなたみたいな気持ちを持てる人も動物も沢山いるの。今回、色々と働きかけて気付いたの。まだ希望はあるって」
妖精の表情は穏やかだ。
ハリネズミは少しホッとした。
「それなら妖精の国は大丈夫だね。僕も飼い主ともっと仲良くなるように頑張るし、飼い主にも頑張ってもらう」
「飼い主にも頑張ってもらうんだ」
妖精はハリネズミの言った事がおかしくてクスクス笑う。
「何で笑うの?僕が仲良くする努力はすれば、きっと飼い主にも気持ちが通じると思うんだ。そうすれば、飼い主も僕ともっと仲良くなりたいって思うんじゃない?これってさ、信頼関係や絆を強くするのに大切な事なんじゃないの?」
ハリネズミの言葉に、妖精は驚きの表情を見せたが、すぐににっこりと笑った。
「そうね。とても大切な事ね。あなたの思いは飼い主の心に必ず届くわ。やっぱり、まだまだ希望はあるわね」
そう言った妖精の表情から寂しさは消えていた。
「さあ!私も頑張るわね。あなたのおかげで元気が出たわ。ありがとう」
穏やかな表情で妖精がハリネズミの頭を撫でた瞬間、突然眩い光がケージ内に広がった。
「え!何が起こったの?」
動揺するハリネズミ。
慌てて隠れようとするが、その光は自分の体から発せられている事に気付いた。
(怖い!)
眩しさと恐怖心で固く目を瞑った。
すると、眩い光は徐々に弱くなり数分程で消えた。
ゆっくり目を開けると、自分の体が何だか軽くなってるような気がした。
恐る恐る自分の体を見てみると、左半身を覆っていた針が元に戻っていた。
「あ!元に戻ってる!やった〜!!妖精さん、見て見て!」
ハリネズミは嬉しそうに妖精を見た。
妖精も嬉しそうにニッコリと笑いながら頷いた。
「本当に良かったわ。あなたの頑張ろう、努力しようという前向きの気持ちのおかげね」
「そうなの?」
ハリネズミは首を傾げた。
「そうよ。その前向きな気持ちも私達の希望になるの」
「分かった!それなら、これからも前向きに頑張るよ!」
ハリネズミは妖精の為に、力になれる事が嬉しかった。
「ありがとう!まだ見つけていない希望があるはず。私達はそれを探し続けるわ。それじゃ、またね」
妖精は手を振るとフッと消えた。
「僕にもできる事があって良かった。妖精の国が崩壊しないように頑張ろう。それから願うんだ。妖精さんは、願いが叶うのには時間が掛かるって言ってたけど…」
ハリネズミは呟きながら巣箱に入る。
「本当に針がもとに戻って良かった。飼い主、喜んでくれるかな〜ホッとしたら眠くなってきちゃったよ。」
ハリネズミは大きな欠伸をするとソッと目を閉じた。
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