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 ある日の深夜、ハリネズミは眠りから目覚めると、自分の体に違和感を覚えた。 (ん?何か変な感じ…) 巣箱から出てみると、全身を覆っていた長く伸びた針が右半身だけ元に戻っていた。 「え!半分だけ戻ってる!何で?」 ハリネズミが呆然としてると、クスクスと笑う声が聞こえてきた。 「綺麗に半分だけ戻ったわね〜」 笑い声の主は妖精だった。 「笑い事じゃないよ!何で半分だけ戻ったの?こんな格好嫌だよ!」 ハリネズミはプリプリ怒りながら抗議した。 「ごめんね。まさか、そんなに綺麗に半分だけ戻ってると思わなくて」 妖精は笑わないように必死に耐えている。 「ねえ!まさか、ずっとこのままじゃないよね?元に戻るよね?」 ハリネズミの質問に、妖精は腕を組みしばし考えた。 「そうね…多分、大丈夫よ」 「多分…?」 ハリネズミは不安そうに妖精を見つめる。 「実はね、少しずつだけど妖精の世界の綻びが直り始めてるの。だから、あちこちで起こってる不具合も解消しつつあるわ。だから、あなたの針も元に戻ると思うのよ」 「そうなんだ!良かった〜」 ハリネズミはホッと安堵の溜息を吐いた。 「安心するのはまだ早いわ」 妖精の一言にハリネズミは、ビクッと体を震わせる。 「まだ、完全に綻びは補修されていない。思いやりや絆、信頼…大切な事に皆気付かないといけないの。私達があちこちに働きかけて、少しずつ気付いてきてるみたいなんだけどね。まだ足りないの」 「それは…僕の針が戻らない可能性があるって事?」 ハリネズミは、ずっとこのままの姿の自分を想像してみる。 「フシュッ!」 恐怖心から一声鳴くと体を丸めようとするが、左半身の長い針が邪魔をして丸くなれない。 「やっぱり、こんな姿嫌だよ〜」 ハリネズミは泣きたい気分になった。 「大丈夫よ。今回の綻びは深刻なものではなかったの。だから、あなたの針も近いうちに元に戻るわ」 「良かった〜あんまり脅かさないでよ。ずっとこのままかと思っちゃったよ」 ハリネズミは再び安堵の溜息を吐く。 「ごめんね。その姿があまりにも面白くて、からかいたくなったの」 「もう酷いよ!」 抗議をするハリネズミを笑顔で見ていた妖精は、一転して真剣な表情を見せて言った。 「今回は、深刻な状況ではなかったから良いけど…これは、前触れかもしれないって長は言ってるわ」 「前触れって何?」 「何が一番大切なのか忘れてしまっている人間があまりにも多いの。今の人間界は憎悪や足の引っ張り合い。悪口や醜い争いで溢れてしまってる。こんな状況が続けば、妖精の国はいずれ崩壊してしまうかもしれない…」 そう語った妖精の表情は酷く寂しそうだった。 「妖精の国が崩壊するなんて…ねえ!僕に何か出来る事はない?」 ハリネズミは、そんな妖精の表情を見ていたたまれない気持ちになった。 「ありがとう。その気持ちが嬉しいわ。あなたのその気持ちが妖精の国を救うのよ」 「そうなの?僕、あなた達の為に何もできてないよ」 ハリネズミの言葉に妖精は首を振る。 「いいえ。誰かの為に行動しようという気持ちは尊いわ。なかなかできない事よ。あなたみたいな気持ちを持てる人も動物も沢山いるの。今回、色々と働きかけて気付いたの。まだ希望はあるって」 妖精の表情は穏やかだ。 ハリネズミは少しホッとした。 「それなら妖精の国は大丈夫だね。僕も飼い主ともっと仲良くなるように頑張るし、飼い主にも頑張ってもらう」 「飼い主にも頑張ってもらうんだ」 妖精はハリネズミの言った事がおかしくてクスクス笑う。 「何で笑うの?僕が仲良くする努力はすれば、きっと飼い主にも気持ちが通じると思うんだ。そうすれば、飼い主も僕ともっと仲良くなりたいって思うんじゃない?これってさ、信頼関係や絆を強くするのに大切な事なんじゃないの?」 ハリネズミの言葉に、妖精は驚きの表情を見せたが、すぐににっこりと笑った。 「そうね。とても大切な事ね。あなたの思いは飼い主の心に必ず届くわ。やっぱり、まだまだ希望はあるわね」 そう言った妖精の表情から寂しさは消えていた。 「さあ!私も頑張るわね。あなたのおかげで元気が出たわ。ありがとう」 穏やかな表情で妖精がハリネズミの頭を撫でた瞬間、突然眩い光がケージ内に広がった。 「え!何が起こったの?」 動揺するハリネズミ。 慌てて隠れようとするが、その光は自分の体から発せられている事に気付いた。 (怖い!) 眩しさと恐怖心で固く目を瞑った。 すると、眩い光は徐々に弱くなり数分程で消えた。 ゆっくり目を開けると、自分の体が何だか軽くなってるような気がした。 恐る恐る自分の体を見てみると、左半身を覆っていた針が元に戻っていた。 「あ!元に戻ってる!やった〜!!妖精さん、見て見て!」 ハリネズミは嬉しそうに妖精を見た。 妖精も嬉しそうにニッコリと笑いながら頷いた。 「本当に良かったわ。あなたの頑張ろう、努力しようという前向きの気持ちのおかげね」 「そうなの?」 ハリネズミは首を傾げた。 「そうよ。その前向きな気持ちも私達の希望になるの」 「分かった!それなら、これからも前向きに頑張るよ!」 ハリネズミは妖精の為に、力になれる事が嬉しかった。 「ありがとう!まだ見つけていない希望があるはず。私達はそれを探し続けるわ。それじゃ、またね」 妖精は手を振るとフッと消えた。 「僕にもできる事があって良かった。妖精の国が崩壊しないように頑張ろう。それから願うんだ。妖精さんは、願いが叶うのには時間が掛かるって言ってたけど…」 ハリネズミは呟きながら巣箱に入る。 「本当に針がもとに戻って良かった。飼い主、喜んでくれるかな〜ホッとしたら眠くなってきちゃったよ。」 ハリネズミは大きな欠伸をするとソッと目を閉じた。
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