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⑤
ハリネズミは妖精の寂しそうな表情が忘れられなかった。
(妖精さん寂しそうだったな…僕にできる事した方が良いよね…それに、このまま針が戻らないのは絶対嫌だ!)
以前は飼い主がケージの扉を開けると、すぐさま物陰に隠れていた。
(もう、隠れないようにしよう!)
ハリネズミは固く決意し、ケージ扉の前に佇んだ。
(さあ!来い。飼い主!)
程なくして飼い主がやって来て、ケージの扉を開けた。
「あら?今日は逃げないのね」
心なしか飼い主の声は嬉しそうだ。
(逃げちゃダメ…逃げちゃダメ…)
ハリネズミは怖かったが、逃げずに飼い主を見上げた。
視力が弱い為、飼い主の顔は見えない。
「フフフ…可愛い。あ!おやつあげるわね」
飼い主は手の平におやつを乗せると、ハリネズミの顔の前に差し出した。
(あ!これは、僕が好きなやつ!)
今までは警戒して受け取らなかったおやつ。
ハリネズミは一瞬躊躇したが恐る恐る食べた。
「初めて手の平から食べたわ!」
飼い主が嬉しそうにニッコリと笑う。
ハリネズミは再び飼い主を見上げる。
(僕より凄く大きいけど…そんなに怖くないのかもしれない…)
ほんの少しだけ警戒心が薄らいだハリネズミ。
(頑張って、もっと距離を縮めるぞ!)
飼い主を見上げながら意気込んだ。
それからハリネズミは頑張った。
飼い主がケージの扉を開けた時、寝ている時以外は進んで近寄った。
その度に飼い主は嬉しそうに笑った。
そんな生活を続けているうちに、ハリネズミの恐怖心が徐々に薄れ、飼い主が扉を開けるのを心待ちにするようになっていった。
「また、何か美味しいおやつくれるのかな?」
扉が開く度に、ハリネズミは駆け寄り期待の目で飼い主を見つめるようになった。
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