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それからもトシアキはどうでもいい話を続けて、サキはのびきったであろう麺のことを思い続けた。
(こんな話を聞いてるくらいなら、話を遮って、カップ麺を食べに行けば良かった)
サキは後悔した。
(今、麺はどんな状態だろ?もうお湯をぜんぶ吸って、のびれるだけのびたとか ?)
麺が気になる。
話しをしながらトシアキは、段々とサキの体に触れてきた。
(どういうつもり?)とサキが思っていると、トシアキがメガネを外した。
(やるつもりなんだ)とサキは思う。
窓の外を見ると、少し明るくなり始めている。
壁の時計に目をやった。
「今からは無理よ。もうすぐ始発が動き出す。そのうちに誰か出社してくるかもしれない」
サキが言っても、トシアキは手を止めなかった。
だけどサキがその気にならないのが分かると、トシアキはメガネをかけた。
「さっきは途中で終わってしまってごめん。埋め合わせしようと思ってピロートークを沢山したんだけれど、やっぱり途中になったことが申し訳ないって気持ちは消えなくて。だから、今からでも急いで最後までしようと思ったんだけど、また中途半端になっちゃった」
と言うと、トシアキは笑った。
サキは唖然とした。
最後までしなかったことを、サキは何とも思っていなかった。
のびてしまったであろう麺のことがずっと気になっていたけれど、トシアキが喋り続けるから聞いてあげないとダメだと思っていたのに、まさか埋め合わせのために頑張って話していたなんて、思いもしなかった。
(何かの代わりになるほど、貴方のトークにそこまでの価値はないよ)とサキは思う。
サキのためを思って話してくれていたんだったら、さっさと寝てくれた方が、よっぽどサキのためだった。
「着替えたいし、シャワーを浴びたいから、一度、始発で帰るね」
サキはトシアキに告げると、仮眠室を出た。
給湯室に行き、カップ麺の容器をのぞき、のびきった麺を見た。
仕方がないのでそのままゴミ箱に捨てたけれど、食べ物を粗末にしたという罪悪感がつきまとった。
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