思惑はすれ違う

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サキは、トシアキがリーダーを務めるプロジェクトに派遣されている。 半年前に初めて出会った時は、まさかこんな関係になるとは思わなかった。 トシアキは自信なさげな、冴えない中年男に見えた。 ものすごく腰が低くて、自虐ばかり言っている。 見た目も、くたびれている。 サキは(この人がリーダーだなんて、大丈夫なのかな?)と最初は思っていた。 でもしばらくすると、トシアキがリーダーを任されている理由が分かってきた。 つまらない冗談ばかり言っているようで、駄洒落を思いつくのがおそろしく早い。 誰のどんな話にも一言、添えられる知識と経験があった。 あえて自分を低く見せるのは、親しみやすさを演出するためだ。 本当は自分に自信があるからこそ、馬鹿のフリもできるらしい。 チーム全体をよく見ていて、問題を抱えている人にすぐに気づくし、さりげなく話を聞きに行く。 ちょっとお節介が過ぎると思うこともあるけれど、先回りして皆んなが必要な物を用意してくれている。 誰のどんな要望も、絶対にきちんと耳を傾けるし、最後まで聞く。 無理な時はハッキリと「無理」と言って、変な期待はさせない。 要望があがってきたことに対して必ず感謝を述べ、応えられる理由も、応えられない理由も、ちゃんと理論立てて説明する。 頭が良くて仕事ができるだけじゃなく、ケアもできる。 サキはトシアキを尊敬するようになり、憧れのような、ファンのような意識も持つようになった。
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