思惑はすれ違う

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何がキッカケでトシアキと男女の関係になったのか。 サキはもう覚えていない。 忘れてしまうくらい、些細なことだったのだと思う。 サキは現在、夫が海外に赴任中だ。 おそらく、あと2年は帰ってこない。 寂しいのとは違うが、(男の人に甘えたい)と思う時がある。 そんな時、身近にいるトシアキに対して(今、この人に甘えられたら良いのに)と思った。 サキの視線の意味に、トシアキが気づいたのかもしれない。 ある時からサキは、トシアキから(女として見られているな)と思うようになった。 トシアキは誰に対しても親切で優しい。 サキだけが特別扱いをされたことはない。 だけど自分と他のメンバーでは、トシアキの意識のあり方が違うように感じる。 愛だの恋だの、トシアキが自分に対して、そんな感情を持っているとは思わない。 でも、プロジェクトの一員というだけでなく、女という肉体を持った存在だと認識されている。 具体的なサインがあるわけじゃない。 あえて言うなら、トシアキの言葉が、以前にはなかった熱を帯びるようになった気がする。 サキは一線を越えないように気をつけていた。 トシアキも、一線を越えないように気をつけているように見える。 だけどお互いが意識するほどに、かえって線は鮮明に浮かび上がった。 たまに無意識に線を越えてしまうと、相手が反応する前に慌てて戻った。 時々いたずら心がわいて、あえて線を越えてみたくなる。 お互いに、自分からは仕掛けない。 だけど、ちょっとしたキッカケがあれば、その線は簡単に崩れてしまうことは分かっていたし、実際にそうなった。
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