鏡の中の

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2023年12月19日の帰り道。 つくばエクスプレスの浅草駅での事。 電車内にて、誤ってパーカーの紐が全て抜けてしまった私は、それを直す為化粧室に入った。 そうして、手洗い場にある――壁の横一面程に広がった大きな鏡を見ながら紐を入れつつ、長さ等を調整していく。 と、丁度その時、鏡に映る私の横に、60代位の着物を着た上品そうな女性がやって来た。 手を洗いたいのかと思い、私は鏡越しに女性に会釈をすると、身を横にずらし、彼女が手洗い場を使える様にする。 女性も鏡越しではあるが、私に会釈を返し、手洗い場の前に立った。 そうして、女性は手を洗い始めたのだが――何かがおかしい。 何故か何時まで経っても水の音が聞こえてこない。 私は、ちらりと隣の様子を窺ってみる。 と、そこには誰もいなかった。 慌てて目の前の鏡を見る私。 すると、鏡には確かに女性が映っている。 が、実際に隣に女性はいない。 そんな私に危害を加えるでもなく、鏡の中で私に向かってただ微笑み続けている女性。 私はその笑顔がとても恐ろしくなって、半ばパニックになると、慌てて化粧室を飛び出した。 二度とあの化粧室には寄りたくない。
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