01.自分ばかりを置き去りにして

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01.自分ばかりを置き去りにして

 自分で望んで入った高校なのに、自分がここにぜんぜん馴染んでいない。自分はここにいなくても別にいいんじゃないか。入学式が終わって二週間ばかりが過ぎた頃、祥平の胸にはそんな気分が募るばかり。入学直後の落ち着かない空気の余韻がまだ残る教室で。  授業を聞いている祥平の胸に募るのは不安ばかり。授業のスピードが早い。周囲の同級生たちはみんな熱心に教師の説明に耳を傾け、ノートにペンを走らせている。自分ばかりを置き去りにして、同級生たちはひたすら前に進んでゆく。そんな気分にさせられる。 「平岩くん、さっきのあの部分、わかった?」  授業が終わり、隣の席の慶太に話しかけられた祥平。慶太は教科書のページを指で指し示す。祥平は首を振る。緊張を覚えながら。 「一般動詞の否定形だからdoes notかと思ったけど、主語が複数だからdo notでいいんだって。引っかけ問題だよな」  慶太が祥平にそう言った。祥平は曖昧にうなずく。 「たしかに。引っかけみたいなものだよね」 「あんなの常識だよ。引っかけでもなんでもなくて」  二人のうしろの席に座っていた紗良が二人の会話に割り込む。祥平はますます緊張する。ただでさえ他人と話すことに緊張するのに、相手が紗良だなんて。  なんてこたえていいのかさえわからないまま戸惑っていると、すかさず慶太が紗良に向かって告げる。 「紗良は帰国子女だろ? だからそんなことが平気で言えるんだよ。オレなんか生まれも育ちも日本だから、英語なんて真面目に勉強しないとわかんないの」 「そんなことない。わたしだって『現代の国語』も『言語文化』もよくわかんない。みんなの2倍も3倍も勉強しなきゃ」  慶太と紗良は祥平を置き去りにしたまま、ふたりで盛り上がるばかり。最初からふたりで話していたみたいに。
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