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10.短く、戸惑いながら
「おはよう。ねえ、平岩くん」
翌朝の教室で、登校したばかりの祥平は自分の席に着くなり、隣の席の慶太に声をかけられた。
「おはよう」
祥平は慶太に声をかけられた瞬間、昨日の書店での光景を思い出す。慶太と紗良が二人で並んでいた光景。見てはいけない秘密を知ってしまったかのような感覚とともに。だから短く、戸惑いながら挨拶してしまう。
「ねえ。もしかして平岩くんも『カージュメル興亡史シリーズ』が好きなのかい?」
慶太の口から「カージュメル」の言葉が出た瞬間、祥平は思わず体を小さく震わせてしまう。予想外の驚きのせいで。
「どうして、それを?」
祥平は慶太に恐るおそるたずねた。自分のマニアックな趣味がバレてしまった? そんな疑問と恐れを抱いて。
「昨日、平岩くんに書店で会ったじゃん」
「うん」
祥平は自分の通学バッグから教科書やノートを取り出し、机に収納しながらうなずく。朝の気だるい空気の中、他の生徒も教室へとやってくる。こういうところで、あまり趣味の話はしたくはない。
「それで、君がいたあたりの棚って、『カージュメル興亡史シリーズ』が並んでたあたりだからさ。ひょっとして君もカージュメルシリーズが好きなのかなって思って。平岩くんもSF好きなの?」
慶太はまっすぐな目で祥平を見つめる。
「え、待って。ちょっと待って。ひょっとすると君も『カージュメル興亡史シリーズ』好きなの?」
祥平が小声で聞き返すと、慶太は大きくうなずいた。
「もちろん。SF好きなら読んでて当然の作品だから」
慶太はそうこたえた。そんなことは当たり前だと告げるように。
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