11.これから青い空へ

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11.これから青い空へ

 その言葉を聞いた瞬間、緊張感みたいなものがすっと解けるような感覚を覚える。かたくなに凝り固まった心のガードが、春先の風の暖かさでやわらかく溶けて消えるような。 「そうなんだ。じゃあ、最新作の……」 「ウゴジンバ編だって読んでるよ、続きが楽しみだね」  慶太がそういったところに、紗良が登校してきた。 「おはよう、朝から二人でなんの話?」  慶太はちょっと首を傾げる。 「紗良ちゃんはSFに興味ある? SF小説の話してたところなんだけどさ」 「サイエンス・フィクションのこと? うーん、あんまりね」  その言葉を聞いた慶太は祥平に目配せする。カージュメル星の話はまたゆっくり二人でしよう。そんなふうに告げるように。それから一瞬だけ、右手の指先を小さくカージュメル式の複雑な形に結ぶ。  その瞬間、祥平は確信する。  慶太とはいい友達になれそうだと。 「ねえ、紗良ちゃん。昨日の本、どうだった?」  慶太は紗良にたずねた。 「うん。すごく面白かった。選んでくれてありがとう」  紗良はすかさずこたえる。さっきのカージュメル式の挨拶にまったく気づいていないようだった。慶太は満足げな表情。 「ならよかったよ」  そんな二人の姿を見て、昨日抱いたような自分だけが置き去りにされてしまったかのような気分はやってこなかった。SF小説の話をこれからたくさんできそうな予感が胸に満ちていたから。  高校生活は始まったばかりだ。まるで春先の風に吹かれる新緑が、これから青い空へどこまでも伸びるような期待が祥平の胸を満たす。 (おわり)
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