06.時間の流れが歪んで

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06.時間の流れが歪んで

 その日の放課後、夕方の書店は混んでいた。祥平のように、学校帰りの高校生という客、幼い子どもを連れた主婦、今から塾に向かう途中のような小学生、ヒマを持て余したようなお年寄り、仕事をサボっているかのようなスーツ姿のおじさんたち……。  駅テナントの書店、SF小説の並ぶ書棚の前で、祥平は一冊の本を立ち読みしていた。宇宙に流れる時間に歪みが生じ、銀河系の秩序が崩壊の危機に瀕している。そんなストーリー。 「あれ? 平岩くん。こんなところで会うなんてね」  祥平は少し驚きつつも、声をかけてきた人物に顔を向ける。それは隣の席の慶太だった。その隣には紗良が立っている。 「あ、うん。帰り道だからちょっと寄っていこうと思って……」  思わぬところで隣の席の慶太に声をかけられたことへの戸惑い、そしてその慶太が紗良と一緒に立っていて、自分を見つめているという困惑、それもよりによって、内容がかなりマニアックなSF小説本を立ち読みしている姿を見られた恥ずかしさ……。 「二人はどうしたの? こんなところで……」  祥平は手にしていた本を慌てて書棚に戻す。この本の熱心な読者ではなくて、たまたま目についた本を興味本位に立ち読みしていただけだというふうに。 「私は日本語の勉強になる本を探しに慶太に連れてきてもらったところ。タブレットで読むばかりじゃなくて、たまには紙の本もいいかなって思って。マンガでわかる源氏物語とかそういうの」  紗良が明るい声でこたえた。その隣で慶太がうなずく。 「そうなんだ」 「平岩君は……」  慶太はSF小説の並ぶ書棚に顔を向け、その背表紙に書いてあるタイトルの文字を読むような視線。  こんなにもマニアックなSF小説を読んでるなんて知られてしまうだけでも恥ずかしい。時間の流れが歪んで、宇宙人が出てくるような小説を読んでいると知られたら。 「いや、面白そうな本はないかなって思っていろいろ見てただけ」  祥平はそう取り繕うように二人に告げ、逃げるようにその場を立ち去るしかなかった。
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