07.存在のカケラもない

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07.存在のカケラもない

 その日の夜。祥平が自分の机に向かって宿題を解いているあいだにも、夕方の慶太と紗良の姿が頭に何度も浮かぶ。なんだか見てはいけない秘密を見てしまったかのようにさえ感じるから。  たしかに慶太ははっきり言って自分よりも顔は良いし、性格だって良い。クラスの誰にも分け隔てなくにこやかかつさわやかに接する。春先の新緑の中を吹き抜ける風のように。  自分とは正反対だ。  きっと慶太の頭にはカージュメル星人だとかウゴジンバ星人みたいな存在のカケラもないだろう。帰国子女の女の子を誘って、学校帰りに一緒に書店へ行くような慶太からすれば、カージュメル星人のことなんて考えている自分は、それこそ醜い宇宙人みたいなもの。 「ねえ、兄ちゃん。宿題でわかんないところがあるんだけど」  弟の悠平の声が背後から聞こえた。弟とは同じ部屋を使っている。勉強机は背中合わせに配置されていた。祥平は弟に振り返る。 「うん?」 「この理科の問題なんだけど」  祥平は悠平の手にした宿題のプリントに眼を通す。 「ああ、これはまず化学式の知識が必要になるね」  そういえば悠平もわりと昔からクラスの人気者なんだよな……。  祥平は悠平に宿題を教えながら、そう考える。小学校の頃からサッカーをやっているし、顔立ちも自分よりもずっといい。そのおかげなのか、小学校の頃から友達は多いし、女子にも人気らしい。  同じ兄弟なのに自分の顔立ちはパッとしないし、性格も成績もけっして良い方だとは言えない。
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