09.高校生にもなって

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09.高校生にもなって

「さっきの理科の問題だけど、まずは化学式の暗記が必要で……」  悠平はスマホに向かって、祥平がたったいま教えたばかりのことを話している。その上、女の子の名前を呼んで。  電話? こっちがいま教えているのに?  祥平はムッとするが、悠平のスマホをよく見ると、電話をかけているのではない。メッセージを音声入力していた。 「いま兄さんが教えたことを、こいつはそのまま音声入力して送ろうとしてるぞ。女の子にいいところ見せようとして!」  祥平は悠平のスマホに向かって、思わずそう叫ぶ。その叫びが音声入力されていく。 「なにするんだよ、兄ちゃん」 「うるさい。真面目に人の話聞けってんだ」  そんなふうに始まった言い争いをしていると、騒がしいことに気づいた母親に仲裁された。弟は部屋から出て行き、祥平ひとりだけが取り残される。祥平はため息混じりに思う。 「高校生にもなって大人げなかったな……」  カージュメル星人みたいな幼稚な想像をしているのは自分だけ。なぜかそんなことが頭に浮かんだ。夕方の書店で、慶太と紗良が二人並んでいる姿と一緒に。自分がものすごく子どものままで、同級生たちがものすごく大人に思えた。  置き去りのような気分で、祥平は自分の宿題に向き合うしかなかった。
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