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第七章
ある時、ヒロキが落ち込んで帰って来た。
なかなか理由を言ってくれなかったが、
どうやら、サッカーを習いたいようだ。
悲しい事にウチはそんな金はなく願いを叶えられそうもない。
気を使わせているのか。
ごめんな。
せめてもと思い、宝くじを買ったが、当たっている気がしない。
そう思って二か月前に発表が終わっている宝くじの結果を見ない自分がいる。
見ないのではなく、見れないのだ。
結果を知ってしまって期待をザックリと切り落とされるのが辛いのだ。
なら結果は見ないで夢だけ見てた方がいい。
思えば俺の人生はそうやって答え合わせをせずに来てしまった気がする。
一度死にかけて戻って来た命だ。
今までとは違う行動をしても良いだろう。
そう思って結果を見てみる。
え?‥‥当たっている‥‥
嘘?一等‥‥5‥‥5億?????
30年生きて来て、見たことがない金額。
「0」を何度も数え直す。
間違いない。
両親が亡くなり兄達に育てられた俺は全てにおいて質素に地道にコツコツとやって来た。
宝くじを持つ手が震えてる。
ただの一枚の紙が今はとてつもなく重く感じる。
何はともあれ、ヒロキに好きなものを買ってあげられる。
それが一番嬉しかった。
残りは兄たちが起業したがっていたのを思い出し投資に回した。
ところがこの会社が大当たり。
一気に株式上場を果たした。
俺は代表取締役になり、あっという間に大金持ちの仲間入りになってしまった。
本当に生まれ変わったように全く違う人生を歩んでいる。
他人の人生を歩んでいるようで落ち着かないが、人生が充実しているのは確かだ。
忙しくて子供と会う時間が少なくなってしまったが、ヘルパーを雇って家事を代行して貰えば問題ないだろう。
「カズヒトさん。僕、学級委員長に選ばれて‥‥」
興奮したようなヒロキの声を遮るように、スマホの着信が鳴った。
会社からだ。
何かあったか?この時間に会社からなんて。
急いで電話に出る。
「え?トラブル?
ごめんヒロキ。
また後で聞くから」
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