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 そこはヒナにもわからないらしい。かたく握られた両手が、カタカタと小さく震えていた。だったらこの問題は一旦保留。次に確認すべきは。 「この人たちのこと知ってる?」  そう言って床に転がっている人たちを指した。明るくなったからわかったのだが、彼らもみな同様に高校の制服、しかも全員が冬服と思われるものを着用していた。ということは、彼らもまた。 「ヒナ?」  ヒナは何も言わなかった。彼らのことを観察している様子はない。彼らの正体にすぐに気づいたにもかかわらず、僕には言いたくないようだ。 「リョウくんは、わからない?」  僕は無言でうなずいた。 「じゃあ、そのままで良いよ」 「そのままって」  もうヒナは何も言わなくなってしまった。教室や制服のことについては簡単に話してくれたのに、どうして彼らのことは何も教えてくれないのだろう。僕には言えないことでもあるのだろうか。  でも、僕の記憶の中のヒナは、いつだって優しい女の子。きっと今だって、僕のために無言を貫いてくれているに違いない。その理由はわからないが、そう信じることにした。僕自身がそう信じたいから。
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