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 僕は茉依さんを傷つけたと思う。自殺なんかありえないと信じている茉依さんに、その可能性もゼロではなかったと言ったのだから。そしてそれを、茉依さん以外の全員がわかっていたのではないかと言ったのだから。実際には犯人がいて、茉依さんの言っていたことの方が正しかったのに。  茉依さんの長く大きなため息。そのあとで、ゆっくりと口が開かれた。 「お母さんがね」  「酷い」とか「最低」とか、茉依さんの気持ちに逆らうようなことを言った僕に対する非難の言葉を覚悟していた。だけど、出てきたのはぼんやりとあたたかい声で、少しだけ気が抜けそうになった。 「毎日泣いていたの。芽依がいなくなったその日から、何も見えなくなって、何も聞こえなくなって、何もできなくなって。ただひたすらに泣きつづけてた。あのままずっと日本にいたら、きっと今頃、芽依のところに逝っていたんじゃないかって思う」  茉依さんの目がみるみる赤くなっていく。 「そんなお母さんを見てたから、私は冷静でいなくちゃいけないと思ってた。私は大丈夫だからって、両親に心配かけないようにしなきゃって思ってた。でも、私も全然冷静じゃなかったんだね」
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