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 落ち着いた様子で話しながらも、目には涙がどんどん溜まり、こぼれ落ちた。 「少し考えればわかることなのにね。いくら双子とはいえ、私だって芽依のすべてを知っていたわけじゃないって。弱さを知っているからこそなんて、考えもしなかったし。私も私の中で、理想の芽依像をつくり上げてしまっていたのかもしれない。芽依はそれに悩んでいたのかな」  理想の誰々像というのは、意識していなくてもつくり上げてしまうものなのだと思う。僕だって、ヒナにあんな強い一面があるなんて知らなかった。僕の中で勝手なヒナ像をつくり上げてしまっていたということだ。だから、茉依さんの言葉も理解できてしまう。  そして苦しい。 「落ち着け、私。これから犯人を捜すんだから、今は悩んでる場合じゃない。もっと冷静にならないと」  大袈裟な呼吸をしながら、茉依さんは自分に言い聞かせるように言葉を紡いでいく。自分自身に暗示をかけるように。 「冷静になんてなれないですよ」  混乱させるきっかけをつくっておいて、一体どの口が言っているんだ。きっとそう思われるだろうが、無理矢理冷静になろうとしている僕は、平静を装いながら言った。
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