6/18
前へ
/178ページ
次へ
「私、死んじゃったんだよ。みんなにはこれからどうとでもできる未来があるけど、私にはもう何もないんだよ。私は理不尽にすべてを奪われたのに、この中にいる犯人にはまだたくさんの可能性がある。そんなの不公平じゃん。どうして私だけこんな思いしないといけないの? ねえ、どうして?」  悲痛な言葉が、無理矢理押し込めた僕の心をまたぐちゃぐちゃにしようとする。声には出さないけど、「落ち着け、落ち着け」と自分に言い聞かせる。呼吸は多少乱れてしまっているが、何とかそれだけに留めたい。 「犯人捜しくらいさせてよ。それくらい、許してよ」  一気に弱々しくなったヒナの目には、たくさんの涙が溜まっていた。一滴たりともこぼしてたまるかと、ヒナは天井を見上げている。そんなヒナを責める人は、もう誰もいなかった。  悲しい息づかいだけが聞こえてくる空間。僕は自分の心を落ち着けるのに必死で、気の利いた言葉をかけてあげる余裕なんて一ミリもない。 「一つだけ、確認しておきたいことがあるんだけど」  石内さんだ。優しく寄りそうでもなく、冷たく突き放すでもなく、あくまで事務的で中立な立場を保とうとしている。
/178ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加