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 思わず名前を呼んでしまった。反射的に僕の方を向いたヒナの頬を、涙がつたう。そのことに気づいたヒナは、目をゴシゴシと押さえながら、ドタバタと教室を飛び出していってしまった。あっという間のことだった。  えっと。  戸惑っていると、いくつかの視線を感じた。茉依さんと沼田くん、石内さんも僕の方を見ていた。そしてみんな、目で「追いかけろ」と言っている。そう感じる。  僕も急いで教室を飛び出した。 ***  月明かりも何もないのに、廊下はほんのりと明るく見えた。相変わらず外は真っ暗で、まるで僕の進むべき道だけが照らし出されているよう。それでも、真夜中の知らない学校という環境は、僕の恐怖心を煽るのに十分すぎた。  光を追って足が止まらない。二回角を曲がり、しばらく走ったところで突き当たりの教室にぶつかった。閉じた扉の上には「音楽室」と書かれている。ヒナがそこにいるという確信はなかったが、僕は息を整えて扉を開いた。
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