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 音楽室の中央から、ヒナのすすり泣く声が聞こえてくる。背中を向けているから、顔を確認することはできない。僕は驚かせないようにゆっくりと、でも、驚かせないように足音を響かせながら近づいていった。 「ヒナ」  乱れた息。呼びかけたものの、僕はその先の言葉が思い浮かばなくて、気まずい空気を流してしまった。背中をさすってあげようと伸ばした手も、ヒナまで届かない。物理的にはすぐそこのはずなのに、すごく遠い。 「私、最低だ」  「すずめちゃんなんてどうだって良い」。みんなの前で言い放った言葉を悔やんでいるのだろう。勢いで出てしまったのかもしれないが、確かに傷ついた人はいたと思う。でも、ヒナの境遇を知ってしまった今、正論をぶつける気にはなれない。 「ヒナ、その」  歯切れが悪い。僕は一体何のためにここに来たのか。何のためにヒナを追いかけてきたのか。こんなドギマギするためじゃないだろう。 「私ね」
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