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 彼は窓の近くに転がっていたが、主人公くんが立てた大きな音にピクリともしていなかった。彼だけは本当に死体なのではないか。僕がそう思い始めたとき、静寂の中でむくりと起き上がった。何の前触れもなく、まるで、見えない糸で操られているかのように。前触れなんて誰にもなかったけど、彼の場合は特に唐突に感じた。  スッと立ち上がった彼は、周囲を見まわすこともなく教室前方へと歩いて行き、先生用のキャスターがついた椅子に座った。起き上がったときも、歩いているときも、座っているときも常に猫背だった彼の名前は、『猫背くん』になった。  この間、ヒナは当初眠っていた席に、僕はその前の席に横向きで座っていた。ずっと近くにはいたのだが、会話は一切なかった。  僕は、周囲の様子を気にすることを常に怠らなかった。誰かがボロを出すかもしれなかったし、何気ない脱出のヒントがあるかもしれないと思ったから。気づいたことは、まったく同じ制服を着た人が一人もいないということだけだった。 「全員目を覚ましたことだし、整理しましょうか」  最初に口を開いたのは、予想通り、学級委員長さんだった。
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