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「中学に入って、リョウくんはすずめちゃんに恋をした。いつも側にいたから、すぐにわかった。すずめちゃんの家に行くときなんか、すっごく嬉しそうだったし」  鼻をすすりながら、ヒナは僕から距離を取るように再び背を向けてしまった。 「そりゃそうだよね。すずめちゃんは可愛いし、優しいし、みんなの人気者だし。私なんかじゃ叶いっこないってすぐにわかって、嫉妬した」  泣いているから呼吸は聞こえるほど荒かったが、口調自体は淡々としていて、用意されている文章を読んでいるかのようだった。「嫉妬した」と言っているのに、その感情が感じ取れない。 「私が一方的に好きだっただけだし、想いを伝えたわけじゃない。すずめちゃんは私にとってもすごく大切な友達だったのに。そんな自分が醜くて、むなしかった」  冷たい空気。ヒナが句点を打つ度に、聞こえない静寂が僕の耳に響く。  教室の時計からもわかるように、この空間には、正確な時間というものは存在していない。にもかかわらず、僕は今この瞬間、一秒一秒がゆっくりと、確かに刻まれていくのを感じていた。
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