15/18
前へ
/178ページ
次へ
「私、もう生きてないんだよ? みんなには帰る未来があるけど、私にはもう何もない。やっと、少しずつ受け入れられてきてるの。私はもう死んじゃったんだって、何度も何度も自分に言い聞かせて、無理矢理にでも納得しようとしてるの。それなのに、そんなに優しくされたら私、もっと生きたくなっちゃう」  こらえていた涙が僕の頬をつたった。  突きつけられた残酷な現実。僕以上にヒナ本人が受け入れられないのは当然のこと。僕の中途半端な優しさがヒナにとっては苦痛になっているって、どうして気づかなかったんだ。理不尽な死に一番苦しんでいるのはヒナ本人のはずなのに。  まだ生きている僕たちのこと、ヒナはどんな思いで見ていたのか。どんな思いで僕と話してくれていたのか。死んだことのない僕に、わかるはずなんてなかった。  何も言えない。もう、ヒナに優しく触れることもできない。僕のどんな言葉が、どんな行動がヒナを苦しめてしまうのかわからなかったから。いや、生きている人間が同じ空間にいるだけで悔しい思いをさせているかもしれない。
/178ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加