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「リョウくんがみんなのことを覚えていないのは、中学時代の記憶を失っているから。二ヵ月くらい前の交通事故が原因で、この教室で過ごした日々のことも、すずめちゃんのことも覚えていない。みんなの言いたいこともわかるけど、リョウくんだってふざけてるわけじゃないから。責めないであげて」  僕が自分で説明すべきことを、ヒナがすべて言ってくれた。 「ごめんね、勝手に話しちゃって。黙っておきたかった?」  申し訳なさそうに僕を見上げるヒナに、優しく微笑みかけながら首を横に振った。にっこりと笑ったヒナは再び椅子に腰を下ろす。  視線をヒナから教室内に戻すと、学級委員長さんをはじめ、そこにいる全員の視線が僕に突き刺さっていた。驚き、警戒、哀れみ。種類の異なる鋭さが、僕をグサグサとえぐっていく。 「ごめんなさい。何も知らずに冗談だなんて言ってしまって」  学級委員長さんが頭を下げた。説明しなかった僕にも非があるわけだから、何だか逆に申し訳なくなってしまった。 「聞いても良いですか?」  頭を上げてもらうために、僕から切り出す。真っ直ぐ前を向いた学級委員長さんは「何でもどうぞ」と言ってくれた。
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