すずめのいない教室

１

　ヒナ。本名は桐谷 陽菜子（きりがや ひなこ）。僕の小学校時代の同級生だ。よく二人で遊んでいた。僕の記憶の中のヒナは小学校卒業時点で止まっているが、目の前の彼女は間違いなくヒナだと、直感的に思った。

　まさか、こんなところで知り合いに会うなんて。驚きながらも、すぐ側まで近寄った。

「ヒナ？」

　小さく声をかけてみたが、ヒナが目を覚ます様子はない。大きな声を出すのは避けたかったから、再び声をかけながら、今度は軽く肩を揺すった。

「ヒナ」

　頼む。起きてくれ。

「ヒナ」
「ん……」

　ゆっくりと目を開けたヒナと、視線がぶつかる。数秒の沈黙。ヒナは事態が上手く飲み込めないようだった。無理もない。

「ヒナ、だよね？」
「リョウくん……？」

　ヒナの目にはみるみる涙がたまり、程なくしてこぼれ落ちた。

「え、どうしたの？　大丈夫？」

　想定外のリアクションに、どう反応すれば良いのか戸惑った。僕の動揺はヒナにも伝わっていたと思う。

「リョウくんが動いてる。リョウくんが喋ってる。リョウくんが、生きてる」

　ヒナは僕を見つめながら泣いていた。心配、かけたんだな。

「ごめんね」