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「なんでリョウくんが謝るの?」  ヒナが手で涙を拭いながら微笑む。その笑顔は僕の知るあの頃と変わっていなくて、安心した。 「ここ、どこだかわかる?」  僕が尋ねると、ヒナはさっと周囲を見まわしてから立ち上がり、歩き出した。進んだ先で何かに手を伸ばす。教室内がパッと明るく照らされた。  一瞬まずいと思ったが、つけてしまったものは仕方がない。ここで慌てて消すのも不自然だ。 「教室。國澤(くにさわ)中かな?」 「國澤中?」  一通り教室を見まわしたヒナがうなずく。 「うん。國澤中だと思う。多分、三年一組の教室じゃないかな?」 「そんなことまでわかるの?」 「あの掲示、見覚えがある」  ヒナは教室の後方を指した。そこには大きな「三年間ありがとう」の文字と、何枚もの紙が規則正しく貼りつけられていた。その紙はどれもたくさんの文字や絵、さらには写真の切り抜きなどでビッシリと埋められているようだった。距離があって詳しくは見えないけど、中学校の教室ということは、生徒の作品か何かだろう。  もっと近くで見ようと動き出したところで、再びヒナの声が聞こえた。 「國澤中の説明しようか?」
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