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四 飲みたい
四 飲みたい
「あれっ!」
夕方、三駅先のターミナル駅前にあるビジネスホテルに仕事で来ていたレナは、客の部屋を出て帰ろうとエレベーターを待っていたところ、偶然友達の理沙に再会する。
「あ、麗奈‥‥‥。アンタここでなにしてるの?」
「なんだ、理沙じゃん。アタシは仕事だよ」
「‥‥‥まだ売りしてるんだ」
「いいじゃん、アタシの勝手でしょ。そういうアンタはなにしてるの? こんなとこで」
「私は別に‥‥‥」
「その格好、これからキャバの出勤みたいだけど、なんでこんなとこにいるの?」
「別にいいでしょ」
「怪しいな、何があるのか教えなさいよ」
「アンタには関係ないでしょ」
「ふ〜ん、人のこと散々ビッチ呼ばわりしといて、アンタも売りしてるんじゃないの‥‥‥」
「違うから‥‥‥」
「じゃあなんでよ」
「私、急いでるから行かないと」
「じゃあ、今日仕事終わりに飲もうよ。久々に会ったんだから」
「でも遅いから」
「何時?」
「十一時だけど」
「遅くないじゃん。いいよ。BARアオハルで待ってるから」
「行けないかもしれないよ」
「ダメ、必ず来て!」
「‥‥‥」
そう言って別れる二人。
レナはそのまま家に帰る。
「ただいま〜」
「お帰り。お疲れ様」と卓が迎える。
「シャワー浴びたらご飯作るね」
「わかった。どうだった、仕事は」
「まあ普通。お馴染みさんだし」
そう言うとレナはシャワーを浴びに風呂に向かった。
卓の住んでる3LDKのマンションで暮らしはじめて半年。
すっかり同居生活にも慣れたレナ。
卓も、レナとの同居に合わせて寝室のベッドを広いキングサイズのに替えてゆったり寝れるようにしたり、一人の時と部屋の雰囲気もかなり変わってきている。
レナの好きなぬいぐるみとかも増えてきて、ラブラブの新婚夫婦の家庭、といった感じになってきている。
シャワーを浴びてバスタオル一枚だけの格好で、鼻歌を唄いながら夕飯を作るレナ。
もろギャルの見た目に似合わず、インスタントが嫌でちゃんと料理したものを食べたいレナは、新しい料理を作ってみたりしながら、色々レパートリーも増えてきた。
出来上がった夕飯を食べながら今日のことを話すレナ。
「今日、昔の友達に偶然あったの」
「そう」
「アタシと同じに中退して、キャバ嬢やってる子なんだけど、今日仕事終わりにアオハルで飲むことにしたんだ。だからあとで行ってくるけどおじさんも行く? 十一時半位からだけど」
「いや、やめとく。久しぶりなんだから二人でゆっくりしてきなよ」
「うん、じゃあ、そうするね。‥‥‥だからさ、ご飯のあとセックスしようよ。帰りは夜中になるからできないし」
「しょうがないな‥‥‥いいよ。もう今日は仕事終わりだし」
「うん、やったね!」
喜ぶレナ、セックスは毎晩のお楽しみになっているのだ。
「さあて、そろそろ来るかな」
BARアオハルで理沙を待ってるレナ。
ひとりで飲んでいると、レナのようないい女には次々に男が寄ってきて誘ってくるからホントにうざい。
十二時半近くに理沙がやってきた。
「待たせたね」
「お疲れ」
飲み物を頼む二人。
「ホント久しぶりだね、麗奈と話すの」
「半年前くらいかな。由紀からアンタが金持ちのパトロン見つけたって聞いたよ、渋谷のマンションに引っ越したって。よかったじゃん、狙い通りになって」
「うん‥‥‥」
「でもまだキャバ続けてるんだ」
「それは‥‥‥」と答えに困る理沙。
「なんで今日あのビジネスホテルにいたの?」
「いいじゃん、別に大したことじゃないし」
「大したことじゃないなら言ったっていいでしょ」
「うざいな〜。どうして麗奈はそうおせっかいなの」
「気になんだよ。友達だから」
「あ〜あ、全くもう‥‥‥」
観念したように理沙が話し始める。
「パトロンとトラブって、今、あのホテルにいるの」
「えっ、いつから?」
「先週から‥‥‥」
「もう一週間とか? なんのトラブル?」
「パトロンの奥さんにバレちゃって、奥さんがいきなり乗り込んできて、追い出されたの。マンションは奥さんの父親の名義の物件らしくて」
「そんな‥‥‥」
「パトロンの親父、奥さんに頭上がらないみたいで、奥さんのいいなりっていうか」
「ひどいじゃん、そんないきなり出てけなんて」
「文句言ったけど、全然聞く耳持たずで、なんかガラの悪い連中も連れてきて‥‥‥。人をアバズレ呼ばわりしてさ、もう面倒だから飛び出したの」
「え、荷物とかは?」
「部屋にあった私のモノ、全部引っ越し屋に運ばせてレンタル倉庫に放り込まれちゃったみたい。取りにいけば出せるみたいだけど、運ぶにも車もないし‥‥‥」
「せっかくいい金づるだと思って、我慢して愛人してたのに‥‥‥」
「元の自分の部屋は?」
「そんなのもう解約しちゃったよ」
「これからどうすんの?」
「引越し先探すつもりだけど、店もあるから、なかなか動けなくって」
「大変だったんだね‥‥‥」
「笑っていいよ。私、麗奈のことバカにしてたのに、ざまをみろって」
「別にそんなこと思わないから」
「‥‥‥マスター、おかわり!」
と言って度数の高いウォッカを飲み干す理沙。
「付き合ってよ、飲んでなきゃやってられないよ‥‥‥」
そう言って何杯もウオッカをおかわりする理沙。
さんざん文句を言っては酔い潰れて寝てしまった。
「あ〜あ、まいったな‥‥‥」
困ったレナは、やむなく卓に電話する。
「あ、おじさん、ホントに悪いんだけど、できればアオハルにきてくれないかな。友達が酔い潰れちゃって‥‥‥」
「わかった。すぐ行くから」
すでにベッドに入っていた卓だが、着替えてすぐにアオハルに向かう。
二人で酔いつぶれた理沙を担いで店を出るが、担がれながら思いっきり嘔吐してしまう理沙。
「うっわ〜、やられた〜」と叫ぶレナ。
「あ〜あ、服とかゲロがかかっちゃったぞ、これじゃタクシー乗せれないな‥‥‥」
「どうしよ‥‥‥」
「しょうがないからウチに運ぼう」
ゲロまみれの理沙を卓の家に運んだ二人。
服を脱がせて裸にして体のゲロのついたとこを濡れタオルで拭き、卓のスウエットの上下を着せてソファに寝かせる。
服は、とりあえず水でゲロを流して洗濯に。
「ふ〜っ、こんなに華奢なのに完全にダウンしてると着替えさせるのも大変だね」
苦笑する卓。
「ごめん、迷惑かけて」
「気にしないでいいよ。ウチらも着替えて寝よう、シャワー浴びてきたら?」
そして二人もゲロで汚れた服を脱ぎ、まとめて洗濯機を回しシャワーを浴びて裸でベッドに入る。
寝る時はいつも全裸で寝てるのだ。
「理沙、お母さんの再婚相手の義理の父親にレイプされて、それで家を飛び出して学校も辞めたんだ。アタシが中退する少し前に。それから年齢隠してなんとかキャバに勤めて、知り合いに頼んだりしてアパート借りて自分の稼ぎで頑張ってたんだ」
「‥‥‥ひどいね。苦労したんだな」
「うん、でもレイプされたこともあって男を信じてないし、嫌ってて、でも生きてくためにキャバ嬢になったんだけど、キャバやってても男をおだててなんとか金づるにすることしか考えてなくって、すごい金持ちのパトロン見つけて楽して生きるって言って‥‥‥。アタシと大喧嘩したの。アタシみたいに男に身体を売って身体すり減らすのはバカだって言って‥‥‥」
「そうなんだ」
「それで連絡もしなくなっちゃって。半年前くらいに別の友達から、理沙が金持ち親父のパトロン見つけて渋谷のすごいマンション当てがわれて引っ越したって聞いてたんだけど、でもさっき聞いたら、パトロンの奥さんにバレて追い出されちゃったって、ターミナル駅のビジネスホテルで先週から暮らしてたんだって」
「いろいろあるんだね。気の毒に」
「男を見る目がなかった、ってことだよ。まあアタシも人のことは言えないんだけどね。今まで男で散々な目にあってきたから」
「ごめんね、ホント、おじさんにこんな迷惑かけるつもりじゃなかったんだ」
「いいよ、わかってるから」
「ぶりっ子演技バリバリで営業顔作ってて、裏表すごいあるけど、本当はすごくいい子なんだ。寂しがりなのに突っ張ってて。ツンデレなとこあるんだけどね」
なんかやりきれない気持ちになる卓。
「同じ歳なんだろ、まだ普通に生きてれば高校生で親に愛してもらって守ってもらってる歳なのに‥‥‥」
「うん、そうだね‥‥‥そうだね」
そう言って黙ってしまうレナ。
「でもアタシには守ってくれるおじさんがいるからさ」
顔をあげてニッコリ笑って卓を見る。
「またセックスする?」
「いや、もう二時半すぎだから寝ないと‥‥‥」
「そうだね、おやすみ。おじさん」
翌朝、ソファで目を覚ます理沙。頭が割れるように痛い。
「いてててて‥‥‥」
昨日の記憶が途中からない。
部屋を見回すと、キッチンには裸エプロンのレナが立っている。
「レナ、ごめん」と声をかける理沙。
「あ、起きた? 昨日は大変だったんだから、ベロベロになって酔い潰れて、運んでたらゲロ吐いてもうゲロだらけで」
「ごめん。ここ、あんたのウチ?」
「ううん、アタシのじゃなく、お世話になってるおじさんの家」
「おじさん? 彼氏のこと?」
「彼氏、ってわけじゃないけど」
「セフレ?」
「むずかしいな、そうも言えなくはないけど‥‥‥」
「朝ごはん作ってるから、シャワー浴びてきたら? 昨日、ゲロがついたとこは一応拭いたけど」
「あ、うん」
「こっち」とレナに案内されて風呂場に。
「タオルはこの棚のを好きに使って。着替えそのままでいい? 夜中に着替えさせたやつだから」
「うん、大丈夫」
「服は今洗濯して干してるから」
そう言って脱衣所から出ていくレナ。
シャワーを浴びて理沙が出てくると、ダイニングではレナと卓が食事をしている。
理沙に気づいて声をかける卓。
「こんにちは、気分大丈夫?」
「二日酔だけど、でも大丈夫です。あ、昨日はすみません。ご迷惑かけて‥‥‥」
「気にしないでいいよ。こっちきてご飯食べれる?」
「はい」
ダイニングテーブルには理沙の分の朝食も用意されていた。
「コーヒーでいい?」と聞くレナ?
「あ、うん、ありがとう‥‥‥。これ、レナが作ったの?」
目の前に置かれている美味しそうな料理に驚く理沙。
「そうだよ。久しぶりにエッグベネディクト作っちゃった」
「すごいね、レナ、こんな料理とかちゃんとできるんだ」
「まあね。でもおじさんのほうが、もっと料理上手いんだけどね」
「えっ?」
卓のほうを見る理沙。
「あ、私、本多理沙って言います」
「よろしく、俺は水嶋卓、おじさんでいいよ。レナもそう呼んでるし」
「あ、はい、おじさんは独身なんですか?」
「うん、バツイチだけどね‥‥‥」
「レナと一緒に暮らしてるんですよね?」
「うん」
「さあ、話はあとにして食べようよ」
レナに言われてエッグベネディクトを堪能する三人。
「すごく美味しかった。お店できるレベルだよ‥‥‥。こんな美味しい朝ごはん久しぶり」
感心する理沙。
「よかった、数少ない自慢料理だからね」と嬉しそうにレナが微笑む。
食後のコーヒーを飲む三人。
唐突に理沙が言う。
「あの〜、おじさんって、やっぱりレナの体目当てなんですか?」
「ぶっ」と驚いてむせる卓。
「理沙、何言ってるの!」と驚き声を荒げるレナ。
「どうだろ、そうかもしれないね」と苦笑する卓。
「そんなことないよ。理沙、変なこと言わないでよ」
「かまわないよ。君が色々苦労してきたことレナから聞いたよ。ひどい目にあって男のこと信じられないっていうか嫌いなんだって?」
「え、だって男は女のこと性欲処理の道具としか見てないし、キレイ事言ってもやりたいだけでしょ」
「そう言われると耳が痛いな‥‥‥」
「おじさん、そんなこと全然ないから」
「レナ、相当入れ込んでるみたいだけど大丈夫?」
「あんた、お世話になったのに、よくそんなひどいこと言えるね!」と怒るレナ。
「‥‥‥ごめん」
理沙は怒られてしゅんとしてしまう。
「いいよ、俺は別に気にしないから」
「‥‥‥ごちそうさま」
食べ終わった食器をキッチンに運ぶ理沙。
「そこに置いといて、アタシやるから」
「いいよ、私やるし」
「二日酔いなんでしょ。ソファで休んでたら。今日は仕事は?」
「シフト入ってるけど、調子悪いから休もうかな‥‥‥」
「服は夕方までには乾くと思うけど」
「うん」
「よかったら寝室でまたゆっくり寝たら?」
ソファに座った理沙に卓が声をかける。
「いいの?」
「ああ、かまわないよ」
「じゃあ、そうさせてもらうね」
卓に案内されて寝室に行く理沙。
「寝具、二人で使ったままだけどいい?」
「おじさん、ここでレナと寝てるの?」
「そうだよ」
「あの〜」
「何?」
「さっきはごめんなさい‥‥‥」
「えっ?」
「失礼なこと言っちゃって」
「気にしないでいいよ」
「じゃ、おやすみ。レナも今日は仕事ないから家にいるって」
「おじさん、レナの仕事知ってるの?」
「うん、知ってるよ」
「そうなんだ‥‥‥」
「本当はやめてもらいたいんだけどね。でも、それを言える立場じゃないし‥‥‥」
「‥‥‥」
「おやすみ、電気消すよ」
「うん」
部屋の電気を消して出ていく卓。
ベッドに横になり色々と考える理沙。じきに眠りに落ちていった。
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