虹色の油膜と黒い奇跡

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 20XX年、日本。 戦況は悪化の一途を辿っていた。世界の警察アメリカは20世紀や21世紀始めのような力を失った。極東の島国日本を見捨て韓国を最終防衛ラインにすることで妥協。中国、ロシア、北朝鮮の共産主義連合軍は韓国をアメリカに引き渡す代わりに日本の領海を取った。今は韓国より日本の領海には旨味がある。アメリカのハワイが弾道ミサイルの射程に入る日本の領海、いや領土に基地を作る。  なんと日本の西ノ島付近で原油が溢れ、埋蔵量は日本の消費量を有に越える。資源がないと云われた日本が資源国の仲間入りをした。資源が出るならアメリカが必ず守ってくれる。その日本の目論見が物の見事に外れたのだ。韓国の海底油田の原油の埋蔵量の方が多い。理由は資源、資源が生み出す金だった。  アメリカに日本が見捨てられた。  このトップシークレットは日本国民の耳に入ることはなかった。テレビ、新聞、ネット、全ての情報は日本国政府によって統制された。共産主義連合軍VS資本主義連合軍の極東アジア大戦は、成長著しい新興国を味方につけた、ロシアと中国を中心にする共産主義連合軍が勝利目前。これが国際社会全体の読みで、各国はこの読みに従って自国の利益のために動く。  日本は国際社会からも見捨てられた。  万事休すの日本政府はまたしても諦めが悪かった。第二次世界大戦敗戦の教訓を活かすという発想は皆無で、負ける戦いをいたずらに引き延ばし、国民の尊い命を安いラーメン屋に無造作に束になって刺さっている割り箸のように使い捨てにする。  日本産の原油を極貧国の紛争地帯に密売し、代金として武器や戦闘機を得る。目立った資源が出ない中央アジア、ロシアウクライナ戦争で疲弊した東欧、ブラジルに資源国として敵わない南米各国。新興国は表向きは共産主義連合軍に戦争協力しながら、裏では敗戦が確実な日本に兵器を密売して最後の一儲けをしていた。  そんな中でアメリカ帰りの一人の日本人研究者が、狂気の沙汰としか思えない策を実行に移した。 「私の研究を採算が合わない、倫理的な問題があると途中で資金を断ち切ったのはアメリカ。あの国に後悔させてやりますよ」  その研究の中身を知った日本政府は色めき立った。研究者が持ち掛けた話は国際法に照らせば倫理的にどこから見てもアウトだ。国連の人権条約にも違反する。しかし、アメリカも資本主義の先進国も日本を見捨てた。国際法に今や何の意義があろうか。戦争に負ければ何もかも失う。それならば起死回生のために…。  ときの首相と内閣は決断を下した。 「一か八かやりましょう。国産の原油だけではもう足りない。人から原油が採れるならこの研究者の案をやらない手はない。無尽蔵に原油が採れれば今からでも巻き返せる」 続けて防衛大臣が重い口を開いた。 「戦力の若い男が足りない。やるなら女だ」 厚労大臣が皮肉混じりに続ける。 「どのみち闇に葬る存在なら若い女がいいでしょうね。軍規が乱れてあの手の伝染病が流行っているようですから。原油を吐き出せなくなったら女子志願兵にすれば一石二鳥」 防衛大臣がもったいぶって言い返す。 「女子志願兵はあくまでも志願、個人の意向は尊重している」 厚労大臣はククッと笑いながら建前を重んじる防衛大臣に茶々を入れる。 「そうですか。女子志願兵は男の兵より随分と高給ですね。つまり仕事内容が多岐に渡ると」  ときの首相は防衛大臣と厚労大臣の間に入るように語り出す。 「女子志願兵の不足も我が軍の士気低下に繋がる深刻な問題です。原油を口から吐き出す人間を遺伝子改造で作り出し、対象は若い女性。博士の研究によると原油を吐き出す量と年月には限界がある。原油が吐けなくなったら女子志願兵へと【昇格】させる。階級は通常の女子志願兵よりも二階級上から始めさせましょう。この条件なら集まるでしょう」 防衛大臣が付け加える。 「あくまでも女子志願兵は個人の希望という形になるように上手く教育するまで」 文科省の大臣もニヤリと笑う。 「ただでさえ高給取りの女子志願兵で二階級上の上等兵ですか。数年勤めに励めば故郷に家が建ち贅沢な暮らしが出来る。愛国教育に力を入れた甲斐があるというもの」 女性活躍のスローガンのお飾りとして大臣の椅子が転がり込んできた40代の女性環境大臣は、男達の女を軽んじる言動に内心腹を立てつつも平静を装った。 (女子志願兵なんてどうせ食うや食わずの貧しい家の子がなりたがる。家が裕福で良かった)  閣僚の中で誰一人として停戦や降伏を言い出す者はいなかった。戦争に負ければ自分の閣僚としての地位を失う。ただひたすら自らの保身のために、人間に原油を吐き出させる遺伝子改造手術を伴う、女子志願兵の募集法案は閣議決定された。悪魔のような計画を誰も止めずに突き進んだ。
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