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慎太郎
…
「まだ誰にも言うなよ」
鳳自慢のカフェテリアの端っこで、再び3人だけの秘密の話。
バッグから出した雑誌を捲って開いて見せる。
「んえぇ…うぐッ」
予想通りの莉弥のリアクションに、用意してあった手で口を塞ぐ。
今日発売のメンズ雑誌に載った。
「この雑誌の専属モデルのオーディションの三次まで受かった」
「凄いじゃん‼︎まだ事務所入ってから2ヶ月ちょっとしか経ってないのに」
雑誌を見ながら朋子が言った。
「何か、良い出会いがあってさ…本気でやってみようかなって思…あッお前‼︎」
口を塞いでいた手を莉弥に舐め回され慌てて離す。
「苦しいってば、バカ」
「バカはそっちだろ‼︎汚ねぇなッ」
「コラコラ騒がないで目立つから…」
朋子がいつもの様に間に入ってくれる。
「これってどういうシステムなの?」
何事もなかったかの様に莉弥が聞いてくる。
開かれた誌面には三次を通過した8人の写真とプロフィールが載っている。
「事務所に入ったタイミングで桜井さん…事務所の人なんだけど、その人がこのオーディションの書類を提出してくれてたみたいでさ…」
その後は言われるがままに面接とカメラテストのレッスンを受けて何とか四次審査まで進む事ができた。
「読者投票の上位4人が最終審査に進めるんだと」
「読者投票⁈じゃあみんなにも知らせなきゃ‼︎」
「…知らせるまでも無さそうだよ」
朋子の視線の先を辿るとそこにいた女の子が2人話しかけてきた。
「涼宮慎太郎くん…だよね?」
「あぁ…はい」
2人はキャアキャア言いながら
「応援してます‼︎握手してください」
そう言って手を伸ばしてきた。
俺は一瞬躊躇って左手を出した。
「あッ慎太郎くん、左利きなんだ…」
そう言って2人は左手を出し直した。
「慎太郎…片付けやっとくから先に行ってなよ」
「…悪い、助かる」
朋子は俺の事を良く分かってくれている。
早歩きでカフェテリアを出て教室の近くのトイレに入った。
一息ついて、握り締めていた右手を開く。
触らせたくなかった。
できればもう洗いたくない。
非現実的な願いを鼻で笑ってから右手の平にキスをした。
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