コンサートの司会

3/6

1651人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
「足、見せてくれる?」 ソファに座った瞳子の前にひざまずき、川上はそっと瞳子の右足首に触れる。 痛みに思わず身を固くすると、ごめん、とすぐに手を離した。 「この辺りだね。少し冷たいよ」 そう言って氷嚢をゆっくりと患部に当てた。 ヒヤッとした冷たさが、熱を持ち始めた足首に気持ちいい。 「えっと、このまま病院に行く?俺、付き添うよ」 「いえ!そんな。軽くひねっただけですし、こうやって冷やしていただいたのでもう大丈夫です」 「ほんとに?明日のステージも平気?」 「はい。明日はロングドレスなので、ペタンコのシューズにします。あの、川上さん。湿布だけ頂いてもよろしいでしょうか?」 「え?ああ、もちろん」 川上は救急箱を開けると湿布薬を取り出し、瞳子の右足首に貼って包帯で固定した。 「これで大丈夫?」 「はい、ありがとうございました」 瞳子は着替えるのは諦めてコートだけ羽織り、靴は家から履いて来たバレエシューズタイプのものに履き替えた。 「川上さん、本当にありがとうございました。お手数おかけしました」 「いや。それより一人で平気?」 「はい。タクシーで帰りますので」 「じゃあタクシー乗り場まで送るよ」 その時、コンコンとノックの音がした。 「はい、どうぞ」 瞳子が答えるとドアが開いて、私服に着替えたマエストロが顔を覗かせた。 「よっ!まみちゃん。聞いたよー、結婚したんだって?はい、これ。お祝い」 そう言って、真っ赤なバラの花束を瞳子に手渡す。 「えっ!まあ、こんなに綺麗なバラを…?」 思わず呆然としていると、マエストロは少し苦笑いする。 「実は俺の楽屋に届いた花なんだ。使い回しみたいでごめんね。でも俺の家に持って帰るより、まみちゃんの部屋に飾ってくれた方がバラも喜ぶよ」 「そんな…。お気持ちがとても嬉しいです。ありがとうございます、マエストロ」 「どういたしまして。良かったら今度紹介して。とびきり美人のまみちゃんを落とした、世界一幸せなお相手をね」 「あ…、はい。ありがとうございます」 なんと答えればいいのか分からず、微妙な笑顔になる瞳子に、じゃあまた明日ね!と軽く手を挙げてマエストロは部屋を出て行った。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1651人が本棚に入れています
本棚に追加