いつの間にか

2/5

1632人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
ケーキを食べたあと、4人は敷地内のドッグランに向かった。 トオルと一緒に駆け回る吾郎や透の様子を見ながら、ベンチに並んで座った亜由美が安藤に話しかける。 「ねえ、莉沙ちゃんは吾郎さんが好きなの?」 ど真ん中ストレートな質問に、安藤は慌てふためく。 「まさか!そんな。都筑さんはお仕事の取引先の方です」 「でも普通、単なる仕事の取引先の人と、プライベートでしょっちゅう会ったりしないでしょ?」 「あ!そうですよね。すみません、非常識なことをして。私、トオルちゃんに会いたくてつい…。でもいけないことでしたよね」 安藤は見た目にも分かりやすく、どんよりと落ち込む。 「トオルちゃんにも、もう会えないのかな…」 いやいやいや!と、亜由美は手を伸ばして遮った。 「そんなのダメだよ。トオルちゃんにとって、莉沙ちゃんは立派なママだよ?莉沙ちゃんがいなくなったら、トオルちゃんがどんなに悲しむか。だからこれからも一緒にいなきゃダメ!」 「亜由美さん…。でも私、お仕事の関係者の方と、こうしてプライベートの時間にお会いするのはもう辞めなきゃ」 「いやだからね、仕事の関係者っていうのを辞めたらいいのよ」 「えっ!そんなのいけません」 「は?どうして?」 「アートプラネッツ様は、うちの会社にとってとても重要なお取引先なんです。これからもお力添えをいただきたいので」 「なんでそうなるのー!」 亜由美はガックリと頭を垂れる。 「莉沙ちゃん、少女マンガとか恋愛ドラマとかは観る?」 「いえ。そういうのは興味なくて」 「なるほど。では僭越ながらわたくしが物申します。莉沙ちゃん、あなたは吾郎さんのことが好きです」 「えっ?!そうなんですか?どうして?」 「好きでもない人と、こんなにしょっちゅう会ったりしないからです。莉沙ちゃん、吾郎さんの部屋にいて、苦痛だなって思ったことは?」 「ありません。居心地良くて、いつもついつい長居してしまって…。あ、それもいけないことでしたか?」 「いけなくなんかありません。じゃあ会話が噛み合わなかったり、つまんないなーと思ったことは?」 「ないです。不思議とリラックス出来て、トオルちゃんとソファでお昼寝させてもらったりはしますけど」 えっ!と亜由美は素に戻る。 「莉沙ちゃん、吾郎さんの部屋で寝ちゃうの?」 「はい。あ!これも非常識でしたね、すみません」 「ううん!いいのよ、全く問題ありません。どうぞスヤスヤお休みくださいませ」 「はあ…」 拍子抜けしたような安藤の横で、亜由美は「これはもう決まりでしょ!」と拳を握りしめていた。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1632人が本棚に入れています
本棚に追加