お姫様ごっこ

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昼の12時過ぎ。 ソファでランチを囲んでいた3人は、聞こえてきた何やら賑やかな声に手を止める。 なんだ?と顔を見合わせていると、オフィスのドアが開いた。 「大河さんってば!もう、下ろして!」 「うるさい。黙って抱かれてろ」 「なな、なんてことを言うのよ?恥ずかしいから!」 瞳子を抱いてオフィスに入って来た大河に、3人は思わず固まる。 「うひゃー!アリシア。久しぶりに会えたと思ったら、お姫様抱っこでご登場?さすがだなー」 「透さん!お帰りなさい。どうでしたか?モルディブは。亜由美ちゃんから昨日、水上ヴィラがもう天国みたいだった!ってメッセージ来ましたよ。って、高いところからごめんなさい」 「あはは!うん、まさにパラダイスだったよ。アリシアは、今日はどうしたの?大河とお姫様ごっこしてるの?」 「違うっつーの!」 大河が大声で遮り、瞳子をそっとソファに下ろした。 「いいか?瞳子。勝手に歩き回るなよ?」 むーっと瞳子はむくれる。 「大丈夫ですってば!」 「いーや、ダメだ。今日の仕事に差し障ってもいいのか?」 「それは…困りますけど」 「だろ?それならおとなしくしてろ」 ポンと瞳子の頭に手をやってから、大河はデスクでパソコンを立ち上げる。 透は二人の為にコーヒーを淹れた。 「ありがとうございます、透さん」 「どういたしまして。アリシア、足を怪我したの?」 「あ、ちょっとひねっただけなんです。痛みもないし、もう普通に歩けるんですけど、仕事の時間までは湿布を貼って安静にしろって言われて…」 チラッと大河を盗み見る瞳子に、透達は、なるほどね、と頷く。 「それは瞳子ちゃん、言うこと聞いておいた方がいいよ。大河の溺愛ぶりは底抜けだからな」 「そうそう。なべなべ底抜けの天井知らず」 あはは!と皆で笑い合う。 「でもじっとしてるなんて、退屈で…」 「それなら瞳子ちゃん。ちょっと仕事の話してもいい?」 吾郎の言葉に、瞳子は、え?と首を傾げる。 「私にですか?何でしょう」 「うん。実は今度、新築分譲マンションのモデルルームにうちのデジタルコンテンツを取り入れることになってね。紹介映像のナレーションを瞳子ちゃんに頼みたくて」 そう言って吾郎は、パンフレットを広げて見せる。 「わあ!素敵なマンションですね。お部屋も広いし、こんなに色々共用施設もあるんですね。パーティールームにライブラリーも?」 「そうなんだ。ファミリー向けだけど、ラグジュアリーで贅沢な非日常感も味わえる。紹介映像も、上質なものに仕上げたいと思ってるんだ。どう?その映像のナレーション、瞳子ちゃんにお願いできる?」 「え、私なんかでよろしいのでしょうか?」 「もちろん!瞳子ちゃんしか考えられない」 吾郎も透も洋平も、瞳子に笑顔を向ける。 瞳子は最後に大河を見た。 真剣な表情で大きく頷く大河に、瞳子も頷き返す。 「はい。精一杯やらせていただきます」 「ほんと?良かった!じゃあ早速、概要とイメージを説明するね。ナレーションの台詞もこれから一緒に考えてくれる?」 「かしこまりました」 瞳子は時間も忘れて打ち合わせに熱中していた。
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