サプライズ

6/7

1675人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
「大河さん、お待たせしました」 終演後。 観客がホールを出た後、ガランとしたロビーで大河が待っていると、後ろから瞳子の声がした。 大きな花束を抱えて笑顔で駆け寄って来る瞳子に、大河は目を細める。 先程まで、まるで自分の手の届かない所に行ってしまったような気持ちで、ステージ上の瞳子を見つめていた。 美しくて、清らかで、高貴で… 手を触れてはいけないような、それでいてどうしようもなく抱きしめたくなるような… コンサートの間、ずっと大河は瞳子に恋焦がれていた。 その瞳子が、今自分のもとに微笑みながら駆け寄って来てくれる。 それだけで大河は胸がいっぱいになった。 手を伸ばして歩み寄ると、瞳子をギュッと抱きしめる。 「え、あの、大河さん?」 いきなり抱きしめられて、瞳子は戸惑ったように大河を見上げた。 「どうしたの?大河さん」 「瞳子が好きだ」 え…、と瞳子は言葉に詰まる。 「瞳子のことが、好きで好きで堪らない。どうしようもないくらい、瞳子が愛おしい」 瞳子はじっと身を固くしていたかと思うと、おずおずと視線を上げて大河を見つめた。 「私も。大河さんのことが大好きなの」 恥ずかしそうに、はにかみながら小声で呟く瞳子に、大河はまた切なさを募らせる。 「瞳子…」 大河は身を屈めると、大きな花束に隠れるようにして、優しく瞳子にキスをした。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1675人が本棚に入れています
本棚に追加