Bar. Aqua Blue

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(はあ、がっくり…………) わずか数秒のときめきは呆気なく終わった。 (そうだよな、そりゃそうだ。いくら何でも夢見すぎだ) 吾郎はグラスをグイッと煽る。 (オシャレなバーだからって、そう簡単に声をかけられたりは…) そう思った時、隣から「あれ?もしかして…」と声がした。 セリフだけ聞くと期待してしまうが、その声は明らかに男性の声だった。 真顔のまま、吾郎は声の主を見上げる。 「やっぱり!あの、アートプラネッツの方ですよね?」 「はい、そうですが?」 「実は私、半年ほど前にテレビで取材されているのを拝見しまして。とても興味を惹かれたので、近々ご連絡して仕事を依頼したいと思っていたんです」 そう言って、30代半ばに見える男性は、スーツの内ポケットから名刺を取り出した。 「私、内海不動産の原口と申します。ちょうど弊社が新しく売り出す新築マンションについて、ホームページやモデルルームでもデジタルコンテンツを駆使したいと思っていたんですよ」 一気にまくし立ててから、「あ!すみません。お隣よろしいですか?」と断って吾郎の隣に座る。 「いやー、こんなところでお会い出来るなんて。夏の御社のミュージアムにも伺いました。素晴らしい技術ですね!うちのマンションも、お客様がそこでの暮らしを想像しやすいように、ARやMRを使った楽しめるコンテンツを用意したいと思っていたんです。ファミリー向けの1000戸ほどの大規模低層レジデンスで、俺の営業マンとしての全てをかけて取り組もうと…」 男性はカバンから資料を取り出すと、次々とテーブルに広げて吾郎に熱弁をふるう。 結局この夜、吾郎が出逢ったのは運命の彼女ではなく、熱血な営業マンだった。
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