近い!

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「んー、随分視力が落ちているみたいですね。今の安藤様の視力に合わせると、このレンズになります」 眼鏡屋に着くと早速視力を測り、安藤は新しい眼鏡を試着する。 「わ、よく見えます。あー、でもなんだかクラッとしますね。酔いそう…」 店内を見渡してから、すぐさま眼鏡を外した。 「そうですね。かなり度数が高いので、慣れるまでは時間がかかるかと思います」 安藤は困ったように視線を落とす。 「私、もともと眼鏡が苦手で。かけていると頭が痛くなるんです。なので、わざと度数を落としてもらっていて」 「そうでしたか。では今回も、少し度数を下げてみますか?」 「はい。でも、仕事に支障がない程度にしたいです。会議室のホワイトボードの字が見えづらくて、毎回困っていたので」 「なるほど。そうですねえ…、それでしたら」 スタッフが考え込んでいる間に、吾郎は安藤に声をかけてみた。 「コンタクトレンズはどう?」 「あ、私もそうしたいんですけど、痛そうだなって躊躇してしまって…。高校生の時、友達がいつも、ゴミが入って痛いーって大変そうだったので」 「ソフトレンズなら、そんなに痛くないと思うよ。1度試してみたら?」 するとスタッフも口を開く。 「そうですね、試してみてはいかがでしょう?併設している眼科も、まだ診療時間内で空いてますから」 それならと、安藤は勧められるまま眼科の診察を受けた。 「では安藤様。特に問題ないとのことでしたので、早速コンタクトを着けてみますね」 先程のスタッフが、安藤を鏡の前に促す。 「少し前髪失礼します」 そう言って安藤の前髪をヘアクリップで留めた。 「はい、真っ直ぐ前を見ていてくださいねー。右目入りましたよ。どうですか?」 「え、もう?わあ、すごい!よく見えます!それに全然痛くないです」 「良かったです。それなら左目も入れてみましょう。はい、どうですか?」 「ひゃー!世界が変わりました!」 安藤は椅子を回転させて後ろを振り返る。 「あ、都筑さん!」 「え?なに?」 「都筑さんって、こんな人だったんですね?」 は?と吾郎は呆気に取られる。 「それって、どういう…?」 「なんだかもっとオジサンのイメージだったんですけど、若い!それにかっこいい!もう見違えましたよ。って文字通りですね。私が勝手にボヤケて見てただけですから。あはは!」 「あははって…」 どうやらコンタクトでよく見えるようになり、テンションが上がっているらしい。 つるんと形の良いおでこを見せながら、満面の笑みを浮かべている安藤は、いつもの彼女とは別人のようだった。
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