夢のような1日

2/5

1664人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
19世紀後半のパリ都市改造計画の一環として、ナポレオン3世の命を受けて建築され、1875年に完成したネオ・バロック様式の『オペラ・ガルニエ』 タクシーで向かう車中、大河は瞳子に詳しく話して聞かせる。 「並み居る世界的建築家をしのいで、171の公募の中からコンペティションを勝ち取ったのが、当時無名だった35歳のシャルル・ガルニエなんだ」 「そうなのね。オペラ・ガルニエは『オペラ座の怪人』の舞台でもあるのよね?」 「ああ。劇場の中央にあるシャンデリアは、重さ7トンのブロンズとクリスタルでデザインされているんだけど、過去に落下したこともあったんだ。そこから『オペラ座の怪人』のワンシーンが生まれたらしい」 「えっ!7トンもあるの?また落っこちたりしない?」 「ははっ!今は大丈夫だよ。そのシャンデリアの上には、シャガールの『夢の花束』っていう天井画があるんだ。モーツァルトの『魔笛』やチャイコフスキーの『白鳥の湖』とか、14人の著名な作曲家とその作品を題材にして描いたらしい。凱旋門やエッフェル塔、オペラ・ガルニエも散りばめられているんだって」 「そうなの?うわー、じっくり見てみなくちゃ」 やがてタクシーの前方に、ライトアップされた宮殿そのものの建物が見えてきて、瞳子は思わず息を呑む。 「なんて綺麗なの…」 先にタクシーを降りた大河は、続いて降りる瞳子に手を差し伸べる。 二人は肩を並べて建物を見上げた。 正面から見たファサードはギリシャ神殿を思わせ、古代ギリシャの建築手法であるコリント式の柱が並んでいる。 柱の下には、モーツァルトやベートーヴェン、ロッシーニなどの作曲家の胸像があった。 しばし見とれてから、大河が瞳子に声をかける。 「じゃあ行こうか」 「ええ」 大河は左腕に瞳子を掴まらせると、ゆっくりとエントランスに向かった。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1664人が本棚に入れています
本棚に追加