お前がいてくれるなら

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「都筑さん、お久しぶりです」 「木谷さん、原口さん、ご無沙汰しております」 3人で握手を交わしてから、部屋の隅のテーブルに着いた。 「映像とコンテンツをブラッシュアップですか?こちらとしては嬉しい限りですが、本当によろしいのでしょうか」 「はい、もちろんです。『既存のものに満足せず、常に良いものを目指す』というのが弊社のポリシーでもあります。マンションの建築が進み、全体の風景も随分変わってきました。そこを反映させないままでは、私も納得出来ませんので」 「そうでしたか。アートプラネッツさんの素晴らしさの理由が分かった気がします。それでは、ぜひともよろしくお願いいたします」 「ありがとうございます。詳しい納期はまた後日お伝えいたします」 話し合いを終えてモデルルームを出ると、吾郎は敷地内をゆっくり歩きながら写真を撮る。 (公園やドッグランもほぼ完成してるな) オシャレな噴水やガーデンなど、改めてここが異国情緒溢れる街のようだと思わせられた。 (透や亜由美ちゃんも、ここに住めば毎日が楽しいだろうな) 二人が笑顔で手を繋いで散歩している様子が目に浮かび、吾郎は微笑ましくなる。 その時だった。 ふいに足元に何かがすり寄って来て、吾郎は驚いて視線を下げた。 「えっ!」 ふわふわでコロコロした茶色の子犬が、吾郎の足に身体をすりつけている。 「お前、どこから来たんだ?」 しゃがみこんで頭をなでると、ぺろぺろと吾郎の手のひらを舐め始めた。 (首輪もないし、近くに飼い主も見当たらないな) 吾郎が辺りをキョロキョロしていると、工事のおじさんが、おっ!と目を留めて近づいて来た。 「まだいたのか、チビ」 「この子犬のこと、ご存知なんですか?」 「いやー、それがな。裏山の工事を始めたら、母犬と子犬が2匹いたんだよ。どうやら山に住みついてたらしくてな。かわいそうに、追いやられて出て行ったんだけど、どうもこのチビだけはぐれてしまったみたいで。見かけたら、時々わしがドッグフードあげてたんだ」 「そうだったんですか…」 吾郎は、頭をすり寄せてくる子犬を抱き上げた。 毛並みはカチコチで艶もなく、身体はやせ細っている。 「あれ、怪我してるじゃないか」 思わす声を上げると、工事のおじさんも、どこ?と顔を寄せる。 「前足のここから血が出てます」 「ほんとだ。木の枝にでもひっかけたかな?」 「おじさん、そこの公園の水道、もう水出ますか?」 「いや、水道工事はまだだ」 「そうですか…」 吾郎は、クゥーン…と、か細く鳴いてこちらを見上げてくる子犬と目が合った。 (まずい。こんなおめめで見つめられたら、もう…) 「連れて帰るしかないか」 そう呟くと、おじさんは「おっ?」と顔を上げる。 「兄ちゃん、飼ってやってくれるか?助かるよ。わしのボロアパートはペット禁止でな。仕事仲間に声かけてもなかなか飼い手が見つからなくて。兄ちゃんが面倒見てくれるなら安心だ。良かったなー、チビ」 おじさんは満面の笑みで子犬の頭をなでていた。
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