お前がいてくれるなら

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「ふう、やれやれ…」 マンションに戻ると、吾郎は子犬を床に下ろす。 病院では、傷は浅い擦り傷で特に心配はいらないと言われ、消毒してから薬を塗ってもらった。 受付の横でドッグフードやリードなども販売しており、吾郎は当面の分だけ購入して帰って来た。 やはり少し栄養が足りていないようだと言われた為、教えられた通りのドッグフードを食べさせる。 「えっと、とりあえずこの食器でいいか」 柔らかいドックフードを皿に載せて子犬の前に差し出すと、少しクンクンと匂いを嗅いでから、パクパクと勢いよく食べ始めた。 「ははっ!いい食べっぷりだな。喉詰まらせるなよ」 あっという間に完食した子犬を抱き上げ、ソファに座ってなでていると、すっかり気を許したように身体を丸めてうとうとし始めた。 病院で洗ってもらった毛並みはふわふわとしている。 「あーあ、まだ見ぬ彼女より先に、お前と同棲することになるなんてな」 独りごちながら、この後の手続きや購入するものを考える。 (えーっと、飼い犬の届け出を出して予防注射を受けて。サークルとキャリーバッグも買わなきゃな) そこまで考えてふと手を止める。 (名前、どうするかな) 病院で咄嗟にトオルちゃんと答えてしまったが、まさかそのままという訳にはいかない。 (んー、柴犬っぽいから、シバちゃん?それとも、コロコロしてるからコロすけとか?) なでる手を止めたからか、子犬が目を開けて吾郎を見上げてきた。 「おっ、どうした?シバちゃん」 するとプイッと子犬はそっぽを向く。 「シバちゃんは嫌か?それなら、コロすけは?」 子犬は微動だにしない。 (もしかして、もう染みついてしまったのだろうか、あの名前が) 吾郎は恐る恐る呼んでみた。 「…トオル?」 すると子犬はパッと吾郎を振り返り、アン!と可愛く返事をする。 しまった…、とうなだれる吾郎の顔を、トオルはぺろぺろと舐めまわしていた。
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