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思いもかけぬ事態に呆気にとられ、朝日は一瞬頭が真っ白になる。
(え? もしかして恭介は、気を利かせるつもりで僕の代わりに動いたのか?)
無意識に、物事を良い方へと考えた朝日であったが、インカムからは少し失望したような宇野の声が聞こえてきた。
『……あのな、恭介に先を越されてどうすんだ? 出来るだけ速やかに行動してくれないと、商売が成り立たなくなるんだぞ。この会場を抑えるだけでも何十万も掛かってるんだ。的確にこっちの指示に従ってくれないと困るんだよ』
「す、すみません……」
意気消沈する朝日に、次に励ますような言葉が投げ掛けられた。
『宇野の言う事は気にしなくていい』
「社長?」
『それより、お前は⑧番のフォローに行け。いつまでも壁の花になっている場合じゃないってな。パーティーの参加者のフリを装いながら、⑧番を、それとなくグループの会話の輪に誘導するんだ』
“壁の花”のセリフに、ふと会場内を見遣ると、壁際で石像のように突っ立ったままの男性がいる事に気付いた。
確かにあれでは、せっかくの婚活パーティーが無駄になってしまいそうだ。
(よし! 頑張るぞっ)
朝日は奮起して、その男性の元まで足を運んだ。
「こんにちは。今日はいい天気で良かったですね~」
思い切って話しかけてみたところ、まさか声が掛かるとは思っていなかったらしく、その男性はビックリしたように目を見開いた。
それとなく名札を確認すると【⑧きよし・30歳・ネコ希望です】と書かれている。
(30歳か~僕と一つ違いだな。そして……ネコ希望か)
だが、男性はラガーマンのように体格がガッチリしているし立派な髭も蓄えているので、見た目だけで言わせてもらえば【タチ】の方が合っている気がする。
いや、偏見だとは思うが、どう見てもタチにしか見えない。
「……ええと、きよしさんはどういった人が好みのタイプなんですか?」
とりあえず無難な質問をすると、きよしは頬をポッと赤らめた。
「自分、誠実な人が好きっす」
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