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逆に質問を返され、朝日は一瞬「うっ」と言葉に詰まる。
本当は23じゃなくて29だし、本音を言えばまだそれ程結婚願望も無い。
恋人だって、積極的に探そうとも思っていない。
なのに、何で僕がこんな所に――と、そう口に出したいのは山々だが。
(そんな事を言ったら、婚活の定義を根こそぎ否定する事になってしまう。弱ったな……ここはとりあえず、無難な会話で乗り越えるか。第一、僕よりもきよしさんの方をプッシュしないとっ)
朝日は営業スマイルを死守しながら、それとなくきよしを紹介する事にした。
「僕の兄が婚活パーティーで運命の相手を見つけたから、一度どんなものなのか体験してみたくて。だから、今日は社会勉強かな? でも、こっちのきよしさんはとても真剣にパーティーへ参加しているから、これから見習おうと思ってるんだ」
架空の兄の例を会話に交えながら、逞しいきよしの背中をそっと押してやると、きよしは朝日のパスに気付いたようだ。
きよしは緊張と興奮で顔を真っ赤にしながら、大きな声で自己紹介を始めた。
「⑧番きよし、歳は30です! 職業は自衛隊員です! こんなガタイですが、自分は生粋のネコっす! 嘘じゃないっす! 自分は⑨番さんみたいな小柄な別嬪に、バックからめちゃくちゃガンガンにやられるのが理想っす! っしゃす!」
「き、きよしさん~そんな事を大声で言わんでも……」
余程動転したのか、きよしはこの場で言わなくていい事まで公表してしまった。
聞いているこっちが恥ずかしくて、居たたまれなくなってしまう。
案の定、周囲からはクスクスと失笑が漏れた。
きよしと朝日が現れるまでは、女王様のようにチヤホヤされていたらしい⑪番が、フンと冷たい一瞥をくれる。
「そうか、君ってネコなんだ。よく分かったよ。でも、来るところを間違ったんじゃないか? むさくるしい連中が集まるパーティーもあるらしいから、君はそっちで参加したら?」
確かに、ガチムチ限定の婚活パーティーもあるらしいが。
しかし、きよしの好みはガチムチではなく、華奢で綺麗な人であるのだ。
(僕の新しい仕事は、出来るだけ本人の希望に寄り添ってやることだ。投げやりに対応して、こっちがダメならあっちだと適当に紹介する事じゃない。ここが僕の正念場だ)
朝日は笑顔を保ちながらも、毅然とした態度で⑪番に対応する。
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