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「恋愛をしたことが無いなら、試しに俺としてみようぜ」
「はぁ!? あの、言っておきますが僕は男ですよ?」
「下らんことをいうな。そんなの恋愛しない言い訳にならないぞ。今じゃあ同性同士でも何の問題もなく結婚できるんだからな」
「それはそうですが……でも、ほら、子供が欲しいならやっぱり――」
相手が女性じゃないと無理ですよと言いかけるが、須藤は先手を打ってきた。
「LGBTにも国から養子縁組の斡旋があるし、養子一人受け入れたら300万円が国から支給される。血を分けた云々に拘らなきゃあ、子供の問題は簡単にクリアだ。まぁ、俺は別にガキに興味はないが」
そう言われては、返す言葉が無い。
第一、朝日も子供が欲しいとはまだ考えもしていないのだし。
「……まぁ、子供の話はともかく。僕は、社長と恋愛なんてそもそも興味ないですから」
「そんな事を言わずに、恋愛ってヤツを俺相手に試してみろと言ってんだよ。じゃないと、後々仕事で困る事になるかもだぜ?」
『後々仕事で困る事になる』と言われ、朝日はグッと言葉に詰まった。
しかし、流されるわけには行かないと何とか踏み止まる。
「恋愛なら、違う相手とやってみますよ。社長と社員じゃあ社内の風紀も乱れますから」
とりあえずこれで上手く躱せるだろうと思ったのだが、それまでの余裕綽々とした様相から一変して、何故だか肩を落としてガックリと項垂れる須藤を目の当たりにし、朝日は動揺した。
「しゃ、社長?」
「……お前、俺の事が嫌いなのか?」
「いえ、そんな事はないですが」
「じゃあ、好きなんだな?」
「好きかと聞かれたら、そりゃあ好きな方ですが……」
この二か月、最初は怖いヤクザのような男かと警戒していた朝日であるが、予想に反し、須藤黒闇という男は有能で実直な社長だった。
※なんでその有能で実直な社長が、前の会社『ビューティー探求房』を居抜き状態で乗っ取ったのかというそもそもの疑問を忘れ、朝日はそう思っていた。
「好きだったら、付き合うでイイじゃねーかよ?」
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