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その日まで所沢朝日は、普通の真面目なサラリーマンだった。
従業員十名足らずの、健康食品の通販を手掛ける小規模な会社の営業に精を出して、それなりに充実した毎日だった。
ついでに言うと、朝日に彼女はいない。
仕事が忙しくて彼女を作る暇が無かったと言うよりは、朝日はどうにも女性が苦手で、誰か紹介するかと言われてもひたすら断り続けた、その結果だった。
そして29歳になるこの年まで、朝日はとうとう彼女も作らず童貞を守り続けるに至っている。
――いや、今はそんな話はどうでもいい。
問題なのは、事務所に押し入ってきた眼前の男達だ。
仕立てのいいスーツを着ている一団だが、殺気立った雰囲気に、どうにも普通の客ではないのは一見して分かる。
「ちょ、ちょっとあなた達! 突然何なんですか!?」
上ずった声で、朝日は抗議の声を上げた。
「こんな所に強盗に入っても、金目のモノなんかないですよ! 出て行かないなら、警察を呼びますよ!」
朝日の警告に、頭目らしき人物がずいっと身を乗り出してきた。
男の朝日から見てもかなりのイケメンだが、右頬に残る傷跡がヤバい人間のようで思わず息を吞む。
後退る朝日に、その男は不遜な様子で訊ねた。
「呼ぶならよべ。こっちは一向に構わん」
「はぁ!?」
「お前だけか? 他の連中は……社長はどこだ?」
「きょ、今日は定休日です。僕は、棚卸の為に一人休日出勤で――」
「なんだ。それならそうと早く言え」
男はそう言うと、不機嫌そうに舌打ちをした。
その男を取り囲むように、強面の男が集まる。
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