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突然会社を乗っ取った男の名前は、須藤黒闇35歳。
端正な顔をした男前だが右頬に傷があるし、名前もアレだし(黒闇って、仏教用語で三悪道って意味らしい)なんだか、任侠映画に出て来そうな男だった。
だが、ハッキリ言って怖そうな男ではあるが、身長も180はあるし、鍛えているらしい体は抜群に格好いいし、これは女が放っておかないだろうとも思う。
――で、その須藤が宣言した『結び相談所』という会社名であるが、すぐにその看板に嘘偽りのないことを朝日は知る事となった。
◇
「……マッチングアプリが普及している昨今、まさかこんな古風な業種がまだ残っていたのには驚きだよ」
朝日がそう愚痴を言うと、対面でウェブ作業をしていた三宮恭介が顔を上げた。
「ん? 何か言った?」
「――いえ、なんでも。それより、進捗状況はどうですか?」
「ああ、なんとかフォーマットは……ただ、まだ完成には時間が掛かるな」
恭介はそう言うと、疲れた顔で笑った。
とりあえず、前の会社『ビューティー探求房』からは、この恭介と朝日の二名がそのまま採用された形になった。
他の従業員たちは、得体のしれない須藤黒闇に不安を感じたらしく、退職金を受け取ってさっさと去ってしまった。
それなら僕達も……と、朝日と恭介も逃げようとしたのだが、諸々引かれても給料30万だという額を提示されて、二人は踏み止まった次第だ。
遠い地方から上京して細々とこの東京で働く身としては、今更あんな何もない田舎には、そう簡単に帰るわけには行かないのだ。
朝日は溜め息をつきながら、ちらりと恭介を見遣る。
「今のところ後悔はしてないけど……それにしても、この業種って大丈夫なのかな」
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