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通販会社とはまるで違う、結婚相談所という業種に突然看板が入れ替わり、二人は不安を抱えていた。
「それになぁ……これって守秘義務違反じゃないかな……通販会社の時の顧客名簿、そのまま流用ってのマズイ気がするんだけど、どう思う?」
朝日の問いかけに、恭介も難しい顔をした。
「うん。俺も、これはあまりよくないと思う。でも、俺たちにあれこれ言う権限なんて無いし、もうしょうがないんじゃないか」
「うーん、そうだよなぁ……別に詐欺に使ってるワケでもないし。でも、いきなり婚活の案内なんて送ったら失礼じゃなくない?」
朝日がそう口にしたところ、突然「何が失礼だって?」という声が被さってきた。
飛び上がって驚く朝日に、件の人物、須藤黒闇がニヤリと笑いながら近寄っていく。
「こっちは親切でご案内の封書を送るんだ。感謝されこそすれ、恨まれることはない。お前たちは気にせず仕事をしろ」
須藤のセリフに、朝日は反論を封じられたような気がした。
そうなのだ。
まず、須藤が朝日に命じたのは、若くて一人暮らしでやたらとサプリを購入している人物をピックアップする事だった。
そういう人物は、往々にして食生活に偏りがあり、それをサプリで補填しようとしているものだ。
そんな『可哀想な』人物に、こちらから愛の手を差し伸べようではないか――というのが、須藤の理屈だった。
「そんなの余計なお節介だって、怒られるような気もしますが……」
辛うじてそう抗議すると、須藤はフンっと鼻で笑う。
「一々気にすんな」
「で、でも、あとで問題になったら……」
「なんだ、胆の小さい野郎だな。さては、ナニも小さいんじゃねーのか?」
「そ、それってセクハラですから!」
「ハハハハ!」
このやり取りに、恭介は微妙な顔をした。
なぜか須藤は、初対面から朝日に対して妙にくだけた物言いをする。
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