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「正式に結婚してから初夜を迎えたい。昨今の流れとは逆かもしれんが、俺はそういう男だ」
堂々と言う須藤を、朝日は驚愕の表情になって見つめた。
なんと、この名前も見た目もヤクザのような厳つい男が!
あろうことか、そんな大和撫子のような古風な考えの男だったとは!
「あ、あのぉ~申し訳ないですが、記憶が戻ったので申告しておきますが、僕は涅槃と既に致しておりますが……」
「だろうな。本当は忘れていてほしかったが、思い出しちまったもんは仕方がない。だが、大丈夫! 俺の方はまだ現役バリバリの童貞だからな!」
恥も外聞もなく、堂々と宣言する須藤だ。
いや、きっと須藤にとってそれは、恥でも何でもないのだろう。
童貞はただの事実であり、本人にとっては、多くの誘惑を乗り越えて見事操を死守してきたという誉であるに違いない。
「須藤さん……よく我慢出来ましたね」
これだけの男振りだ。
モテるに決まっているし、事実モテたのだろう。
それは、須藤の巧みなテクニックが物語っている。
自主練だけでは、ここまで上達する訳がない。
(本番以外は飽きる程やった、か……)
それはもう沢山の恋人が過去にいたのだろうと思うと、何となく面白くないような気がして、朝日はぷぅっと頬を膨らませた。
その様子を敏感に察し、須藤は「何だ、妬いたのか」と揶揄う。
「安心しろ。遊びはしたが、本気になった事は一度もない。俺が結婚したいと思ったのは、お前だけだ。俺の童貞も、お前に捧げるつもりだ」
「なんか凄いこと言ってますが……じゃあ、僕達は結婚するまでは清い関係のままって事ですか?」
せっかく恋人同士になったのに、なんだかお預けを喰らったようで、それはそれでちょっとだけ物足りないような気分になる朝日だ。
すると須藤は、悪巧みをするような笑みを浮かべた。
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