最終章

12/15
前へ
/105ページ
次へ
「正式に結婚してから初夜を迎えたい。昨今の流れとは逆かもしれんが、俺はそういう男だ」  堂々と言う須藤を、朝日は驚愕の表情になって見つめた。  なんと、この名前も見た目もヤクザのような厳つい男が!  あろうことか、そんな大和撫子のような古風な考えの男だったとは! 「あ、あのぉ~申し訳ないですが、記憶が戻ったので申告しておきますが、僕は涅槃と既に致しておりますが……」 「だろうな。本当は忘れていてほしかったが、思い出しちまったもんは仕方がない。だが、大丈夫! 俺の方はまだ現役バリバリの童貞だからな!」  恥も外聞もなく、堂々と宣言する須藤だ。  いや、きっと須藤にとってそれは、恥でも何でもないのだろう。  童貞はただの事実であり、本人にとっては、多くの誘惑を乗り越えて見事(みさお)を死守してきたという(ほまれ)であるに違いない。 「須藤さん……よく我慢出来ましたね」  これだけの男振りだ。  モテるに決まっているし、事実モテたのだろう。  それは、須藤の巧みなテクニックが物語っている。  自主練だけでは、ここまで上達する訳がない。 (本番以外は飽きる程やった、か……)  それはもう沢山の恋人が過去にいたのだろうと思うと、何となく面白くないような気がして、朝日はぷぅっと頬を膨らませた。  その様子を敏感に察し、須藤は「何だ、妬いたのか」と揶揄う。 「安心しろ。遊びはしたが、本気になった事は一度もない。俺が結婚したいと思ったのは、お前だけだ。俺の童貞も、お前に捧げるつもりだ」 「なんか凄いこと言ってますが……じゃあ、僕達は結婚するまでは清い関係のままって事ですか?」  せっかく恋人同士になったのに、なんだかお預けを喰らったようで、それはそれでちょっとだけ物足りないような気分になる朝日だ。  すると須藤は、悪巧みをするような笑みを浮かべた。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

106人が本棚に入れています
本棚に追加