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三角の屋根がついたバンガロー風の小さな小屋は窓もなく、入口をコロがふさぐと中はほぼ真っ暗です。床にに敷かれたマットはしわくちゃで、湿ったにおいがプンとします。
「や、やめろ!」
抵抗したくても、シューズのヒダリは動けません。ベロベロとなめまくるコロのよだれがジワジワとしみこんでいきます。
「かわいそうに」
薄暗がりの中で声がします。マットの上に涼くんの手袋の片方がへばりついていました。
「ここに来たら、もうおしまいだよ」
手袋のとなりでへたっている涼くんの汗拭きタオルの声もします。
「ぼくらのように、涼くんに忘れられて、ここでボロボロになっていく運命さ」
そう言うのは、涼くんの帽子でした。
「ふざけるな! ボロボロにも、ドロドロにもなるもんか。おい、コロ! なんで、オレなんだ。ミギをくわえてくればいいじゃないか!」
ヒダリがそう言うと、コロはなめるのをやめて、言いました。
「だってさ。ミギのやつより、おまえの方が、涼くんのにおいが強かったんだもん」
「そんなバカな話があるか。ミギとヒダリは平等だ。涼は、同じ時間だけ、オレたちを履いていたんだぞ」
「そうかなあ」
「そうに決まってるだろ。わかったら、さっさとミギをくわえてこい。そして、オレを、もとの場所にもどせ、この、よだれ野郎!」
「そ、そうかなあ」
ヒダリの勢いに押され、コロは小屋を飛び出し、もう一度玄関に向かいました。そして、ミギのにおいをかいだのですが、
「やっぱ、ヒダリの方が、においが強いぞ」
と、ミギをくわえる気にはなれませんでした。
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