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結局、なにもくわえずに、小屋にもどろうとしたコロは、庭でいいものを見つけました。サッカーボールです。
「涼くんのにおいがするぞ」
と、鼻でつっついて、小屋まで運びます
「無礼者! わが輩は涼くんの大切な宝だぞ。元の場所にもどさぬか!」
コロにベロベロなめられながら、サッカーボールはあらがいます。小屋の中でコロの帰りを待っていたヒダリは、
「おい、ミギはどうした、ベロベロ野郎!」
と、いらだちが募るばかり。けれどもコロは、ケロッとした顔つきで、
「おまえの方が、涼くんのにおいが強いぞ」
と言い、小屋の入り口からサッカーボールを押し込むと、ベロベロ、ベロベロ……。さらに狭くなった小屋の中で、ヒダリは息もできません。
「おれの方がにおいが強いだと? おまえの鼻がどうかしてるんだ! この耳くそ野郎!」
ヒダリはもう、頭に血がのぼっていて、「鼻」の話をしてるのに、なぜコロのことを「耳くそ野郎」と呼んだのか、自分でもよくわかりません。生まれてこの方、こんなに暗くてせまくて湿っぽい場所にいたことはないのです。店では店頭に飾られていましたし、涼くんの家では下駄箱に入ることもなく、玄関先に置かれていたのです。
「ハア、ハア、ハア……」
シューズがどこで息をしているかはわかりませんが、ヒダリの息は苦しくなるばかりです。
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