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よだれまみれになりながら、コロとヒダリのやり取りをうかがっていたサッカーボールが言いました。
「ほほう、あのいけすかないミギよりも、おぬしの方が、においが強いというわけか」
「ハア、ハア、……いけすかないミギ?」
自分も、ミギのことを「いけすかない」と思っていたので、サッカーボールの言葉を聞いて、ヒダリはちょっと気分がよくなりました。ミギは、いつもヒーローきどりで、ヒダリの不安や痛みに全然気づかないのです。サッカーボールは続けて言いました。
「そのとおり。あの者はいけすかない。調子にのって、ガンガン、わが輩を蹴り飛ばす」
「ハア、ハア……なるほど」
「それにくらべて、おぬしは、涼くんのからだの軸になっている。左の足に力を入れるから、その分、おぬしの方がすり減っているし、汗もしみ込んでいるというわけだ」
ヒダリの中に、なにかがストンと落ちました。
――ハア、ハア……ちゃんと理由があったんだ。ミギより涼のにおいが強いことも、すり減ることをおそれて不安だったことも、自分が「ヒダリ」だったからなんだ。
――ハア……ミギだけがヒーローなわけじゃないんだ。
ヒダリは、自分が「ヒダリ」であることを、はじめて誇らしく思いました。
――ハ……、もう一度、涼の役に立ちたい。
だいぶ息が整ってきました。ヒダリはコロに聞こえないように、サッカーボールにささやきます。
「ここから、脱出することって、できないかな」
すると、サッカーボールが言いました。
「わが輩に、いい考えがある」
そして、サッカーボールは、ベロベロと自分をなめ続けるコロに、ボソボソとなにか耳打ちをしました。
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